【抗生物質の特徴と使用法(注射薬)】

A)ペニシリン系
 1)ペニシリン製剤
  *ベンジルペニシリンカリウム(PCV)
    結晶ペニシリンGカリウム(100万U/V)
    ※肺炎球菌や髄膜炎菌による化膿性髄膜炎やレンサ球菌による心内膜炎
     では、1200〜2400万U/日の大量投与が第一選択。筋注はか
     なり痛いので点滴静注が望ましいが、血管痛があるので600万Uを
     300〜500mlに溶解し、6時間かけて投与する。
 2)合成ペニシリン製剤
  *アンピシリン(ABPC) 
    ペントレックス(1g/V)1回1〜2g、1日2〜3回。重症では8
    gまで増量可。
    ※適応菌種のうちブドウ球菌の95%以上がβラクタマーゼを産生する
     ため、耐性ブ菌用のPcとの合剤(ビクシリンS)かクラブラン酸と
     の合剤(オーグメンチン)を使用すべき。肺炎球菌に対しては、本剤
     が第一選択。腸球菌、特にE.faecalisに対しては、本剤の抗菌力が最
     もすぐれている(但し、E.faecium、E.aviumでは、Pc高度耐性株が
     多い)。インフルエンザ菌のPc耐性株の頻度は約20%。βラクタ
     マーゼ非産生菌については、第一選択。大腸菌は約60%が高度耐性
     菌である。
  *アスポキシシリン(ASPC)
    ドイル(2g/V)1回1〜2g、1日2〜3回。重症では1日8gま
    で増量可。
    ※ABPCよりやや抗菌力が強いが、基本的には同じ。組織への移行性
     がすぐれている。
  *ピペラシリンナトリウム(PIPC)
    ペントシリン(1g、2g/V)1回1〜2g、1日2〜4回。重症で
    8gまで増量可。
    ※抗緑膿菌作用を持つペニシリンであるが、現在では緑膿菌に対する抗
     菌力は他の薬剤に比し、すぐれているとは言いがたい。アミノグリコ
     シドとの併用は、抗菌力の相乗効果が期待できる他に、本剤は高い尿
     細管親和性を有するために、前者の腎毒性を軽減する可能性があり、
     重症感染症に対し推奨される組合せの1つである。胆汁移行が非常に
     良好で、胆道感染症には特に有効。
 3)複合ペニシリン製剤
  *アンピシリン+クロキサシリン  
    ビクシリンS(2g/V)1回1〜2g、1日2回。
    ※アンピシリン(ABPC)とクロキサシリン(MCIPC)の1:1合剤。ブドウ球
     菌による感染症に対する第一選択。但し、MRSA(Methicillin 耐
     性黄色ブドウ球菌)感染症の頻度がふえてきており(約20%)注意
     が必要。

B)セフェム系製剤
 1)第一世代
  *セファゾリンナトリウム(CEZ)
    セファメジン(1g/V)1回1〜2g、1日2〜3回。重症では1日
    5gまで。
    ※当院では唯一の第一世代セフェム。主として、グラム陽性菌と大腸菌、
     肺炎桿菌など一部のグラム陰性桿菌に対して有効。しかし、耐性菌が
     増加してきており、注意が必要。腸球菌には無効。MRSAには、無
     効のことが多い(第一世代セフェム耐性黄色ブ菌は約30%)。胆汁
     移行率が悪く、胆道感染症には適さない。
 2)第二世代
  *塩酸セフォチアム(CTM)
    パンスポリン(1g/V)1回1〜2g、1日2〜4回。重症では4g
    まで増量可。
    ※第二世代のセファロスポリン系薬剤。CEZの有効菌種に加え、肺炎
     桿菌、インフルエンザ桿菌などグラム陰性桿菌に抗菌力が増したが、
     セファロスポリナーゼに弱いのが難点。中等度以上の呼吸器系感染、
     胆道系感染、尿路系感染、耳鼻科眼科系感染、皮膚軟部組織などの種
     々の感染症で、第一選択の薬剤となりうる。
  *セフメタゾールナトリウム(CMZ)
    セフメタゾン(1g、2g)1回1〜2g、1日2〜4回。重症では4
    gまで増量可。
    ※第二世代のセファマイシン系薬剤。βラクタマーゼに対して、きわめ
     て安定。MRSAにも有効。抗菌力はブランハメラ、バクテロイデス
     を除き、パンスポリンにやや劣るが、βラクタマーゼ産生菌が増加し
     ている昨今では、本剤もパンスポリン同様、中等度以上の感染症に対
     して第一選択の薬剤。呼吸器感染症では本剤はインフルエンザ菌には
     抗菌力が弱いので注意が必要。腹腔、骨盤腔の感染症は、多くの場合
     バクテロイデスを含めた混合感染のことが多いので、本剤が良い。重
     症例では、アミノグリコシド系との併用が有用で望ましいが、混点は
     不可(不活化)。腎機能障害例には不適。
  *セフスロジンナトリウム(CFS)
    タケスリン(1g/V)1回1〜2g、1日2〜4回。重症では4gま
    で増量可。
    ※緑膿菌にのみ有効な薬剤。アミノグリコシド系抗生物質と交差耐性が
     ない。緑膿菌感染が明白で、本剤に感受性がある場合に適応となる。
     抗菌力は各種主要抗菌剤の臨床分離緑膿菌に対する発育阻止濃度参照。
 3)第三世代
  *セフォタキシムナトリウム(CTX)
    セフォタックス(1g、2g/V)1日1〜2g、2回。重症では1日
    4gまで増量可。
   *セフチゾキシムナトリウム(CZX)
    エポセリン(1g/V)1日 1〜2g、2〜4回。重症では1日4gま
    で増量可。
   *セフォペラゾンナトリウム(CPZ)
    セフォビット(1g/V)1日1〜2g、2回に分割投与。重症では6
    gまで増量可。
   *塩酸セフメノキシム(CMX)
    ベストコ−ル(1g/V)1日1〜2g、2回に分割投与。重症では4
    gまで増量可。 
  *ラタモキセフナトリウム(LMOX)
    シオマリン(1g/V)1日1〜2g、2回に分割投与。重症では4g
    まで増量可。
    
    ※上記の薬剤は以下のような共通点を有する。
     1.一般的に、セフェム系抗生剤は世代が進むにつれて、グラム陽性球
      菌に対する抗菌力が低下する一方、グラム陰性桿菌に対する抗菌力
      が強化され、βラクタマーゼに対してきわめて安定である。
     2.グラム陰性桿菌に対しては、第二世代セフェムの抗菌力に加えてイ
      ンドール陽性プロテウス、セラチア、エンテロバクター等にも有効。
     3.グラム陽性球菌に対しては、肺炎球菌、腸球菌を除くレンサ球菌に
      は有効であるが、ブドウ球菌に対してはほとんど無効。
    ※セフォビットは約65%が胆道から排泄され、胆汁中の濃度が飛抜け
     て高く、重症胆道系疾患では切札的存在なので、乱用はさけたい。ま
     たこれらの薬剤で唯一緑膿菌に適応が認められている(ただし、さほ
     ど強力ではない)。その他の薬剤はほぼ同じと考えて良いが、MIC
     は大腸菌、肺炎桿菌、セラチア、インフルエンザ桿菌、モルガニを除
     くプロテウスではエポセリンが、シトロバクター、ブランハメラカタ
     ラーリスではシオマリンが、エンテロバクターではベストコ−ルが、
     最もすぐれている。
 4)第三世代以後のセフェム
  *セフミノクルナトリウム(CMNX)
    メイセリン(1g/V)1日1〜2g、2回に分割。重症では6gまで。
    ※セファマイシン系抗生剤。抗菌スペクトラムはセフメタゾンとほぼ同
     じで、第二世代の抗生剤と考えたほうが良い。セフメタゾンに比し、
     グラム陰性桿菌、バクテロイデスフラジリスに対する抗菌力は強化さ
     れているが、黄色ブ菌に対する抗菌力は著しく劣っている。ブランハ
     メラカタラーリスにはシオマリンと同じくらい有効。デュアルアクシ
     ョン(ペニシリン結合蛋白の他にペプチドグリカンにも結合するため)
     による強い殺菌力をもつ。in vitroよりもin vivoでより効果を発する
     という(in vivo効果)。また低濃度でも殺菌的に働く。
  *セルトリアキソン(CTRX)
       ロセフィン(1g/V)1日1〜2g、1〜2回に分割。重症では4g
    まで増量可。
    ※本剤の最大の特徴は血中半減期が長いことで、6〜8時間。インフル
     エンザ菌、大腸菌などには強いが、肺炎桿菌の1部に耐性化傾向が認
     められる。セラチア、エンテロバクターなどは他の第三世代と同等。
     緑膿菌はじめブドウ糖非発酵菌には効かない。黄色ブ菌、腸球菌には
     無効。嫌気性菌に対する抗菌力も弱い。主に胆道系より排泄される。
  *セフブペラゾンナトリウム(CBPZ)
    トミポラン(1g/V)1日1〜2g、2回に分割。重症では4gまで
    ※グラム陰性菌への抗菌力は、第三世代とほぼ同等だが、グラム陽性菌
     への抗菌力は劣っている。βラクタマーゼには安定で低濃度でも殺菌
     的に働く。in vivo効果あり。
  *セフピミゾールナトリウム(CPIZ)
    アジセフ(1g/V)1日1〜2g、2回に分割。重症では4gまで。
       ※in vitroの抗菌力は第二世代のセフェムと比較しても決して良くない
     が、末梢白血球や腹腔マクロファージとの協力作用、細胞性免疫賦活
     作用などによる in vivo効果あり。
  *セフゾナムナトリウム(CZON)
    コスモシン(1g/V)1日1〜2g、2回に分割。重症では4gまで。
       ※グラム陰性菌に対する抗菌力は、第三世代セフェムとほぼ同じ。緑膿
     菌に対する抗菌力はセフォビットより弱い。グラム陽性菌、特に黄色
     ブ菌に対して、セファメジンとほぼ同程度の抗菌力を有する。MRS
     Aにも有効といわれているが、最近は耐性株が増加しており注意が必
     要。腸球菌には効かない。
  *セフタジシム(CAZ)
    モダシン(1g/V)1日1〜2g、2回に分割。重症では4gまで。
    ※グラム陽性菌に対する抗菌力はやや劣るが、緑膿菌を含めたグラム陰
     性菌に強い抗菌力を示す。グラム陽性球菌に対しては、肺炎球菌を除
     き効果は期待できない。腸球菌に対する抗菌力は既存の三世代抗生剤
     よりも悪い。緑膿菌に対する抗菌力は、セフェム系の抗生剤中最強の
     1つであり、抗緑膿菌対策の薬剤として大切に使いたい。喀痰、胆汁、
     髄液中への移行も良好。
  *セフォペラゾン/スルバクタム(CPZ/SBT)          
    スルペラゾン(1g/V)1日1〜g、2回に分割。重症では4gまで。
    ※CPZとβラクタマーゼ阻害剤のスルバクタムの1:1合剤。スルバ
     クタム自身もアシネトバクターとナイセリアに対し、抗菌力を有する。
     臨床分離株中セフォペラゾン単独に比べ、スルバクタムの併用により
     抗菌力の改善が見られるのは、バクテロイデス・フラジリス、シュウ
     ドモナス・セパシア、アシネドバクターなどにすぎない。現時点では
     セフォペラゾンの抗菌スペクトラムにはいる菌種のなかでセフォペラ
     ゾンを不活化するβラクタマーゼ産生菌の分離頻度はきわめて低い。
     βラクタマーゼ産生菌に対して用いた場合にのみ抗菌力の増強が見ら
     れるので、あえてセフォビットに代えて、スルペラゾンを使用する利
     点はない。むしろ重症感染症に対して、ペントシリン、ドイルなどと
     併用し、スルバクタムのペニシリナーゼ型のβラクタマーゼに対する
     阻害効果を利用する方が有用。特に、腹腔内膿瘍や骨盤内膿瘍・嚥下
     性肺炎など、βラクタマーゼ産生菌(Bacteroides fragilisなど)の
     混合感染時に真価が発揮される。

C)モノバクタム系
  *アズトレオナム(AZT)
    アザクタム(1g/V)1日1〜2g、2回に分割。重症では4gまで。
     ※好気性グラム陽性菌と、嫌気性菌にほとんど抗菌力を有さず、好気性
     グラム陰性菌に優れた抗菌力を有する。各種βラクタマーゼに強い安
     定性を持ち、βラクタマーゼ誘導も低い。主として尿から排泄され、
     胆汁移行は、あまり良くない。グラム陰性菌に対する抗菌力は、ベス
     トコールとほぼ同じ。プロテウスに対してやや強く、インフルエンザ
     菌に対してやや劣る。緑膿菌に対しては、セフォビット・タケスリン
     とほぼ同じ。単剤でよりも、ABPC・CLDMなどと併用される機
     会が多くなると思われる。感覚的にはアミノグリコシドとほぼ同じと
     考えて良い。アミノグリコシドとの違いは前者が黄色ブ菌に有効な点
     で副作用の点では後者が優る。
  *カルモナムナトリウム(CRMN)
    アマスリン(1g/V)1日1〜2g、2回に分割。重症では4gまで。
     ※基本的には、アザクタムと同じと考えて良い。。

D)カルバペネム系
  *イミペナム:シラスタチンナトリウム(IPM/CS)
    チエナム(500mg/V)1日1g、2回に分割。重症では2gまで。
     ※グラム陽性球菌のみならず、グラム陰性桿菌まで、平均して強力な抗
     菌力を有する。MRSAを含めた黄色ブ菌のMIC90は0.78、腸球
     菌に対しても1.56とすぐれている。溶連菌や肺炎球菌にも特にすぐ
     れ、グラム陰性桿菌に対する抗菌力も第三世代と同等かすぐれる。
     緑膿菌に対してもMIC90が6.25とすぐれているが、P.cepacia、
     X.maltophilia、プロテウスに対しては、劣っている。またバクテロイ
     デスなどの嫌気性菌に対しても、すぐれた抗菌力を有する。さらにβ
     ラクタマーゼに対して安定なばかりか、阻害作用を有する。しかし、
     ラクテートと接触するだけで不活化されるので、投与にあたっては生
     理食塩水に溶解し、単独で30〜60分かけて点滴静注する。2g/
     日の使用で、精神症状が比較的高率に出現するので、注意が必要。
     以上のように、非常に強力ですぐれた薬剤であるので、安易に用いて
     耐性菌を作ってしまうことのないよう、また、菌交代現象で有効な抗
     生剤がないような状況にならないように、症例を選んで適切に使用す
     ることが特に大切である。

E)アミノグリコシド系
  *硫酸ゲンタマイシン(GM)
    ゲンタシン(40mg、60mg/V)1日80〜120mg、2〜3
    回に分割。
  *ジベカシン(DKB)
    パニマイシン(100mg/V)1日100mg、1〜2回に分割投与。
  *硫酸シソマイシン(SISO)
    エキストラマイシン(50mg/V)1日100mg、1〜2回に分割
    投与。
  *硫酸ネチルマイシン(NTL)
    ネチリン(100mg/V)1日200mg、2回に分割投与。
  *硫酸アストロマイシン(ASTM)
    フォーチミシン(200mg/V)1日400mg、2回に分割投与。
  *硫酸アミカシン(AMK)
    アミカシン(100mg/V)1日200L〜400mg、2回に分割
    投与。

   ※アミノグリコシド系は一般的にグラム陽性菌では、黄色ブ菌には強い
     抗菌力を有するが、肺炎球菌、溶連菌には抗菌力を有さない。最近で
     はアミノグリコシド耐性の黄色ブ菌も出現してきているので、要注意。
     また、緑膿菌をはじめとしたグラム陰性菌にひろく抗菌力を有する。
     アミノグリコシドは次の3系統にわけて、使い分けるとよい。
      1)ゲンタマイシン、パニマイシン、エキストラマイシン、ネチリン
      2)アミカシン
      3)フォーチミシン
     1)にまとめた薬剤はほぼ同じ抗菌スペクトラムを有しており、どれを
     使ってもよい。従ってこのグループ内での薬剤の変更はあまり意味が
     ない。2)のアミカシンは1)の薬剤と抗菌スペクトラムを異にし、1)の
     薬剤に対する耐性菌に対しても有効な事が多い。ただし、抗菌力は1)
     群の薬剤より劣っているので2)→1)の変更は妥当ではない。3)のフォ
     ーチミシンもまた1)、2)と異なるスペクトラムを有し、緑膿菌には効
     かない代わりにセラチア、プロテウスに他剤より良好なMICを有し
     ている。従って、アミノグリコシド系の薬剤を用いる場合は、まず1)
     の中からどれか1つを使い、次に2)のアミカシンまたは3)のフォーチ
     ミシンという使い分けが、望ましい。副作用の聴器毒性・腎毒性共に
     GM>SISO>DKB>AMK>NTL>ASTMの順に強いと言
     われている。セフェム系、ラシックスとの併用は、腎毒性を強めるの
     で、注意が必要。頻度は低いが、上記のほかに筋弛緩作用・発疹・発
     熱・アナフィラキシー反応・肝毒性・血液障害などもあるので注意。

F)テトラサイクリン系
 *塩酸ミノサイクリン(MINO) 
     ミノマイシン(100mg/V)1日200mg、2回に分割。
         ※きわめて広い抗菌スペクトラムを有するが、静菌性の抗生剤であり、
      肺炎球菌・溶血レンサ球菌・大腸菌・肺炎桿菌など多くの菌が、本剤
      に耐性であるので注意が必要。マイコプラズマ・クラミジア・リケッ
      チア感染症に対しては、第一選択。また黄色ブ菌に対して、すぐれた
      抗菌力を有し、他剤と交差耐性を有しないため、有用性が高い。さら
      に、βラクタム剤が効きにくいブドウ糖非発酵性のグラム陰性桿菌(
      アシネトバクター、キサントモナス・マルトフィリア、シュウドモナ
      ス・フルオレセンスなど)に対しても抗菌力を有している。強い酸性
      なので比較的太い静脈から250ml以上の生食などに溶解して投与
      する。血管炎や血管痛がみられるときはさらに希釈して(500ml) 
      投与する。また他剤とは混注しないほうが無難。

G)その他
  *リン酸クリンダマイシン(CLDM)
       ダラシンP(600mg/V)600mg、2回。重症では2400m
     gまで増量可。
          ※主としてグラム陽性菌にすぐれた抗菌力を発揮する。ペニシリン、セ
      フェム、テトラサイクリン系と交差耐性を示さない。嫌気性菌とくに
      バクテロイデスフラジリスに強い抗菌力を示す。骨盤腔内感染症、腹
      部外科領域術後感染症、誤嚥性肺炎などが適応となる。偽膜性大腸炎
      の頻度が、最も高いので注意が必要。
  *ホスホマイシンナトリウム(FOM)
    ホスミシンS(2g/V)1日2〜4g、2回に分割投与。
          ※一応グラム陽性・陰性菌に対して広く抗菌力を有し、とくに緑膿菌、
     変形菌、セラチアなどに対し良好な抗菌力を有するとされている。し
     かし、その抗菌力はさほど強くなく、第一選択として使用する薬剤で
      はない。他の系統の抗生剤と交差耐性を有さないので、多剤耐性で本
     剤に感受性を有する場合に適応と考えたい。但し、耐性の獲得が早い
     と言われているので、注意が必要。ライソゾーム膜の安定化による尿
     細管保護作用があり、アミノグリコシド系の腎毒性を軽減することが
     知られている。MRSAに対して、セフメタゾンなどとの併用が有用
     とされている。ナトリウム含量が多い(14.5mEq/1g)ので、
     5%グルまたは注射用蒸留水で希釈して使用する。

H)抗真菌剤
  *アンフォテリシンB(AMPH)
     ファンギゾン(50mg/V)
      ※初回1mg/日より開始、5mg、10mgと患者の耐用性をみなが
     ら増量し1週間で50mg/日をめざす。総量1gを1クールとする。
     投与は5%グルで0.1mg/mlとし3〜6時間かけて点滴静注する。
     悪寒、発熱、頭痛、悪心、嘔吐、静脈炎、筋肉痛、腎障害、過敏症状
     など副作用が強いので注意が必要。ABPC、アミノグリコシドとは
     配合禁忌。カンジダ、クリプトコッカス、ムコール、アスペルギルス、
     ヒストプラズマ、ブラストマイセス、コクシジオイデスに対し強い抗
     菌力を有する。静脈投与は副作用が強いため、種々の局所投与法も行
     われる。
  *ミコナゾール(MCZ)
    フロリードF(200mg/20ml) 初回200mg、以後1回
    200〜400mg 1日2〜3回。
          ※200ml以上の輸液に溶解し、60分以上かけて点滴静注する。
     カンジダ、クリプトコッカス、アスペルギルス、コクシジオイデスに
     有効。骨、関節、肺、食道への移行は良好であるが、髄液移行は不良。
         副作用は比較的少ないが、静脈炎、血管痛、発疹、胃腸障害、ショッ
     クなど。クマリン製剤、血糖降下剤の作用増強があり、注意が必要。
     AMPHとは拮抗的に作用するため、併用は禁。
  *フルコナゾール(FCZ) 
    ジフルカン(100mg/50ml) 1日1回 50〜200mg点
    滴静注。重症では400mgまで使用可。カンジダ、アスペルギルス、
    クリプトコッカスに有効。血中半減期が長く(30時間)1日1回投与
    でOK。髄液移行も良好。現在のところ重篤な副作用は認められないと
    されている。

I)抗ウイスル剤
  *ビダラビン(Ara−A)
    アラセナA(1V=300mg)1日10〜15mg/kg 10日間
    ※単純ヘルペス脳炎、免疫抑制患者における帯状疱疹に使用。5%グル
     または生食500mlに溶解し、2〜4時間で点滴静注。
  *アシクロビル(ACV)
    ゾビラックス(1A=250mg)1回5〜10mg/kg 1日3回。
    ※適応は同上。結晶による腎障害を防ぐため5mg/kgを2.5mg/
     mlになるよう希釈して1時間以上かけて1日3回点滴静注。重症で
     は1回10mg/kgまで増量可。こちらの方がやや優れていると報
     告があるが、いずれにしても早期診断、治療が大切。

J)抗原虫剤
  *イセチオン酸ペンタゾシン
    ベナンバックス(1V=300mg)4mg/kg 1日1回、筋注ま
    たは点滴静注。筋注は蒸留水3mlに溶解後、2カ所以上に分けて、点
    滴は5%グルまたは生食で100ml以上に溶解し、1〜2時間で。
    ※ニュウモシスチス・カリニ肺炎に対して用いられる。重篤な低血圧、
     低血糖および不整脈が現れることがある。

[参考1]外来における抗生物質の経口投与法−望ましい選択、使用法:経口投
     与で十分対応できる感染症は、軽症〜中等症までの咽喉頭炎、扁桃炎、
     気管支炎、マイコプラズマ肺炎、単純尿路感染症、皮膚感染症など。
 ---------------------------------------------------------------------
  感 染 症   主要起炎菌    第一選択    第二選択    
 ---------------------------------------------------------------------
  扁 桃 炎  溶血性レンサ球菌 ペニシリン系 第一世代セフェム系 
  咽 頭 炎                  マクロライド    
 ---------------------------------------------------------------------
  喉 頭 炎  インフルエンザ菌 ペニシリン系 第三世代セフェム系 
 ---------------------------------------------------------------------
  肺   炎   肺炎球菌     ペニシリン系 第一世代セフェム系 
         --------------------------------------------------------
         インフルエンザ菌 ペニシリン系 第三世代セフェム系 
         --------------------------------------------------------
        黄色ブドウ球菌  耐ブ菌用PC 第一世代セフェム系 
        -------------------------------------------------------- 
         マイコプラズマ  エリスロマイシン            
                  ミノマイシン           
 ---------------------------------------------------------------------
  軟部組織   黄色ブドウ球菌  耐ブ菌用PC 第一世代セフェム系 
    感染症  
        溶血性レンサ球菌 ペニシリン系 第一世代セフェム系 
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[参考2]呼吸器系感染症の起炎菌に対する各種抗生剤(内服)
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 経口    インフル 肺炎 ブラン 黄色 溶血性 肺炎 マイコ  
  抗生物質  エンザ菌 球菌 ハメラ ブ菌 レ球菌 桿菌 プラズマ 
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 ABPC、AMPC   ○    ◎    △   △   ◎   ×    ×   
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  オーグメンチン    ◎    ◎   ◎   ○   ◎   ○    ×   
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  L-ケフレックス    ×    △   ×   ○   ◎   △    ×   
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 ケフラ−ル   △    ○   △   ○   ◎   ○    ×   
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  オラセフ     ○     ○    ○    ○    ◎    ○     ×  
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 セフスパン    ◎     ○    ○    △    ◎    ◎     ×  
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  エリスロシン      ×    ○   ○   △   ○   ×    ◎   
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  ミノマイシン      ○    △   ○   ◎   △   ○    ◎   
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 タリビット   ◎    ×   ○   ○   △   ○    ×   
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  (◎:きわめて有効、○:有効、△:やや有効、×:無効)
     
[参考3]呼吸器主要病原菌に対するセフェム系注射薬の有効性
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                    イ 肺 ブ 黄 肺 緑 
                    ン   ラ         
                    フ 炎 ン 色 炎     
                    ル   ハ     膿   
                    エ 球 メ ブ 桿   
                    ン   ラ       
                    ザ 菌   菌 菌 菌 
     --------------------------------------------------------   
       セファメジン (CEZ) △ ◎ △ ○ ○ × 
     --------------------------------------------------------   
       セフメタゾン (CMZ) △ ◎ ○ ○ ○ × 
     --------------------------------------------------------   
       パンスポリン (CTM) ○ ◎ △ ○ ○ × 
     --------------------------------------------------------   
       セフォタックス(CTX) ◎ ◎ ◎ △ ◎ × 
     --------------------------------------------------------   
       エポセリン  (CZX) ◎ ◎ ◎ △ ◎ × 
     --------------------------------------------------------   
       セフォビット (CPZ) ◎ ◎ ○ △ ○ ○ 
     --------------------------------------------------------   
       ベストコール (CMX) ◎ ◎ ◎ △ ◎ × 
     --------------------------------------------------------   
       シオマリン (LMOX) ◎ ○ ◎ △ ◎ × 
     --------------------------------------------------------   
       タケスリン  (CFS) × × × × × ◎ 
     --------------------------------------------------------   
       メイセリン (CMNX) ○ ○ ◎ × ○ × 
     --------------------------------------------------------   
       トミポラン (CBPZ) ◎ ◎ ◎ × ◎ × 
     --------------------------------------------------------   
       アジセフ  (CPIZ) ◎ × ○ × ◎ ◎ 
     --------------------------------------------------------   
       コスモシン (CZON) ◎ ○ ◎ ○ ◎ × 
     --------------------------------------------------------     
       モダシン   (CAZ) ◎ ○ ◎ × ◎ ◎ 
     --------------------------------------------------------   

[参考4]各種抗菌剤の臨床分離緑膿菌に対する発育阻止濃度(ug/ml)
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                 MIC 60   MIC 80  
      -------------------------------------------------  
        ペントシリン   6.25     12.50  
      -------------------------------------------------  
        タケスリン    3.13      6.25  
      ------------------------------------------------- 
        セフォビット  12.50     25.00  
      -------------------------------------------------  
        モダシン     3.13       6.25  
      -------------------------------------------------    
        アザクタム    3.13       6.25  
      -------------------------------------------------
         チエナム     1.56       3.13  
      -------------------------------------------------
        ゲンタマイシ   3.13       6.25  
       -------------------------------------------------
        パニマイシン   1.56       6.25  
       ------------------------------------------------- 
        エキストラマイシン    0.78       3.13  
       ------------------------------------------------- 
        ネチリン     3.13       6.25  
       ------------------------------------------------- 
        アミカシン    3.13       6.25  
      -------------------------------------------------
        フォーチミシ  25.00     50.00  
       ------------------------------------------------- 
        ホスミシン   12.50     25.00  
      -------------------------------------------------
        タリビット    1.56       3.13  
       ------------------------------------------------- 
        ミノマイシン           12.50  
      -------------------------------------------------

[参考5]抗緑膿菌薬の使い方    
  1.ペントシリンはβラクタマーゼ産生菌により不活化される。またセフォビ
   ットもβラクタマーゼ(特にペニシリナーゼ)により、一部分解されるの
   で、阻害剤(スルバクタム)などの併用が必要となることがある。
  2.緑膿菌は耐性化しやすいので、菌・宿主・院内環境などの諸因子を考慮し
   て、計画的に抗生剤を使用することが大切。
  3.3〜4日使用して、解熱傾向が認められない場合は、感受性データーを参
   考に変更する。無用な長期投与は、決して行ってはならない。
  4.重症例では、併用療法も考慮すべきで、推奨される組合せとしてペントシ
   リン+アミノグリコシド、セフェム系+アミノグリコシド、βラクタム系
   +モノバクタム、モノバクタム+アミノグリコシド、βラクタム系+βラ
   クタム阻害剤などが、上げられる。
  5.重症例ではさらに、緑膿菌に対する力価の高いγグロブリン製剤の使用も
   有用である(緑膿菌用のポリグロビンなど)。

 ・参考文献
  【各種感染症における起炎菌と化学療法】、【日常診療レベルで検出される微
   生物について】の項を参照


    

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