【動物咬傷】

A)蛇咬傷
 1)問診と視診
  1.受傷時間、蛇の種類と大きさ、以前の毒蛇咬傷歴、アレルギー体質の有無
   2.牙痕、受傷部位などから傷の深さを推測する(やまかがしの場合は傷の深
   さが大切)。
   3.疼痛は毒の注入があれば必発で、灼熱感を伴う激しい痛みである。
   4.浮腫も毒の注入に応じて、進行性に増大する。
   5.発赤・紅斑もほぼ必発で、時に出血性水疱形成を見る。
   6.全身症状として、脱力感、悪心、嘔吐が時に見られ、重症例ではショック、
   呼吸困難も出現することがある。まれに、蛇毒によるDIC、急性腎不全 
  2)基本的処置
  1.患部の安静(できるだけ患部を動かさない)。
  2.患部より中枢側を、ゴムまたはひもで表在静脈還流を阻止する程度に結ぶ。
  3.患部を水、生食などで洗浄し、消毒液で消毒する。
  4.患部の十字切開。30分以内(吸引すれば蛇毒の10%を除去できる)。
  5.局所症状、所見の進行・増悪があれば皮内テスト後、抗血清を投与する。
  6.局所症状が著明で全身症状がある場合は、呼吸循環の管理を行い、プレド
     ニゾロンの投与も考慮する。
   7.破傷風トキソイド、抗生剤の投与もおこなう。
   8.局所症状が強い場合は凝固系検査を中心に経過観察し、重篤な合併症の続
   発を早期に診断し、血漿交換の適応があれば施行する。

  注)最近、やまかがしの抗毒素血清が開発された。
    日本蛇族学術研究所 群馬県薮塚本町 TEL 0277-78-2631 で入手可能。

C)犬咬傷
 1)犬の口内にはブドウ球菌、レンサ球菌、その他種々の細菌、ウィルスが多
   数存在するので、咬傷による感染の可能性を考慮し、治療に当たる。
 2)基本的治療
  1.傷の周囲を水、または石鹸水で洗浄する。
   2.傷を過酸化水素水またはヒビテン水で十分洗浄、消毒する。
   3.創縁、および挫滅組織を切除する。
   4.創は原則として開放性にする。ただし、創が小さく新鮮なもの、顔面、関
   節周囲、血管や神経などが露出しているものは緊縛しない程度に縫合する。
    5.抗生剤と破傷風トキソイドの投与を行う。重症例では、テタノブリン(乾
      燥抗破傷風人免疫グロブリン)も使用する。

D)ハチ刺傷
 1)ハチ刺傷を起こす主なハチは、スズメバチ・キバチ・アシナガバチ・ミツ
   バチである。年間、30〜70名の死亡例が報告されているが、その多く
   はアナフィラキシーショックによるものと思われる。ハチ毒の直接作用と
   ハチ毒過敏症によるアレルギー反応の2つからなると考えられている。
   ハチ毒の直接作用は、ヒスタミン、セロトニン、アセチルコリン、ホスホ
   リパーゼA2などによるものと考えられる。
 2)中毒症状:局所症状は刺傷部の疼痛と腫脹が主な症状である。全身症状と
   しては、刺傷後数分から10数分で全身に蕁麻疹・発赤が出現し、声門・
   喉頭浮腫による呼吸困難、喘息様発作が見られる。さらに、血管透過性の
   亢進による循環血液量の減少と末梢血管拡張のため低血圧がみられること
   もある。この他、縮瞳、唾液分泌亢進、徐脈、嘔吐、下痢などから敗血症、
   急性腎不全まで種々の症状が出現しうる。
 3)治療
  1.症状により、呼吸循環管理を慎重に行う。輸液管理も大切。
  2.昇圧剤、ステロイド、利尿剤、抗生物質、抗ヒスタミン剤、マンニトール、
   気管支拡張剤などを必要に応じて使用する。

E)参考薬剤
 1)沈降破傷風トキソイド(生研)
   破傷風毒素をホルマリンで無毒化し、アルミニウム塩で不溶化したもの。
   1ml中に約10Lfの破傷風トキソイドを有し、1人用/V。
   通常0.5mlを筋注(皮下注)する。
 2)テタノブリン(乾燥抗破傷風人免疫グロブリン)
   1V中に破傷風抗毒素を250国際単位含有する。
   予防的に使用する場合は1V、破傷風発症後の治療として用いる場合は、
   2V以上を筋注で投与する(静注禁)。異種蛋白は含んでいないが、重症
   アレルギー反応、アナフィラキシー様症状に注意する。

・参考文献
 1.内科治療マニュアル 第4版  MEDSi 1987
 2.真栄城優夫:咬傷 診断と治療 Vol.77 No.10 1989 診断と治療社
                           
             

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