【小児疾患の見方】

A)小児疾患の特徴
  1)小児の急患のほとんどは、上気道感染、嘔吐下痢症、そして小児に特有の
   伝染性疾患など軽症例であるが、なかに髄膜炎、腸重積などの見逃しては
   ならない重症疾患がある。
  2)時間外の患者が多い。しかし夜間だから重症が多いとは限らない。
 3)経過が急速である。朝に元気だったのに、夕方にはぐったりして重症化し
   ていることも希ではない。

B)重症患者の見分け方
 1)機嫌が悪い。
 2)なんとなく元気がない。顔色が悪い。笑わない。
 3)ぼんやり、うとうとしている。寝てばかりいる。
 4)泣き声が弱々しい。採血しても泣かない。
 5)時に火をつけたように激しく泣く。

C)診察のポイント
 1)はじめに
  1.家族と一緒に診察室に入ってくるときの様子に注目する。
  2.救急処置が必要かどうかをまず、判断する。
  3.患児の年・月齢を常に念頭において、診察にあたる。
 2)問診 
  1.親(付添い)の話をよく聞く。
   a)普段とどうちがうのか。
   b)既往歴、家族歴、予防接種歴、家庭環境など。
   c)乳児では、出生時の様子、出生体重、栄養方法などを聞くことが大切。
  2.親のペースに巻き込まれず、あわてない。
  3)診察
  1.明るいところで、裸にして、全身をくまなくみる。
  2.熱はないと思っても、必ず計ってみる。
    3.腹部は泣いていないときにタイミングよく触診する。
  4.口腔内の診察は、いやがるので最後にみる方がよい。
  5.乳児では、大泉門を必ず触診すること。忘れずに!
 4)処置、投薬の注意
  1.投薬は必要最小限とし、翌日、小児科の専門医を受診するように指導する。
  2.点滴をいれる自信がないときは、無理をせず、専門の施設に送る。
  5)迷ったときは重い方と考えて対処する。
    経過を見ないと診断できないこともある。誤診を避けるためにも、経過を
   知ることは大切である。

D)症状別にみた小児疾患の見方

【発熱】
 1)ポイント
  1.小児の急患では、最も多い主訴である。その大部分は上気道感染症(いわ
   ゆる風邪症候群)である。咳・鼻水があれば、ほとんどOK。
  2.風邪は3日前後で解熱することが多く、4〜5日以上続く場合は要注意。
  3.生後3カ月未満での発熱は髄膜炎なども考えて、あやしければ迷わず専門
   医に連絡する。 
  4.40℃以上の高熱、遷延する熱性痙攣の場合は要注意(特に3カ月以内)。
  2)チェック項目
  1.熱型と持続日数
  2.随伴症状:発疹、頭痛、嘔吐、熱性痙攣、耳漏、耳痛
  3.検査:検尿(アセトン体・できれば沈渣)、血算、血沈、胸部レ線。
 3)鑑別疾患(年齢別)
  1.乳児では
   a)突発性発疹→発疹の項参照
      b)中耳炎
    *耳漏、耳痛があれば診断は比較的容易。
    *風邪の後に続発することが多い。
    *インフルエンザ菌、肺炎球菌が起炎菌のことが多い。
   c)化膿性髄膜炎→疑いがあればすぐに転送!
    *3カ月までに多い。
    *意識障害、嘔吐を伴い、大泉門の膨隆、項部硬直を認めたら専門医へ
   d)肺炎
    *上気道感染症に引き続き、高熱・咳がひどく、呼吸が荒いときに疑う。
    *聴診所見、血算、胸部レ線で診断は容易。
    2.1歳前後では
      a)ヘルパンギーナ
        *夏になると見られるようになる。
    *熱が主症状。他に、喉に赤い発疹を認める。
   b)膀胱炎
    *乳幼児では、発熱と嘔吐という症状が多い。
    *頻尿、排尿痛が明らかなのは年長児
    *尿検査で診断。 
   c)麻疹→発疹の項参照
      d)川崎病→発疹の項参照
    3.幼児では
   a)扁桃炎
    *4〜7歳児で頻度が高い。
    *ウイルス性のものが多い。咽頭扁桃痛や発赤が強ければ、A群β溶連
     菌を、白苔付着を認めたら別の細菌を疑う。
  4.学童では
   a)インフルエンザ
    *流行、症状より診断は比較的容易。
   b)伝染性単核症
    *発熱、リンパ節腫脹、咽頭発赤、発疹、肝脾腫大などの症状と、末梢
     血で異型リンパ球の出現より本症を考慮する。
    *self limitted の疾患なので対症療法でよい。
        *肝機能障害の出現に注意(おくれて認められることが多い)。   
  4)治療
  1.解熱剤
  2.脱水があれば補液を行う。補液により解熱することも少なくない。→脱水
  3.クーリング
  4.浣腸:便のでていない子供の時には、状態が良くなることがある。
  5.熱性痙攣(来院までに消失することが多い):ダイアップ座薬を使用。
  5)親に対する説明と指導
  1.安静と水分補給(少量頻回に与える)を指導する。 
    2.全身状態が悪くなければ心配ないが、食欲のないときは気をつける。

【咳・呼吸困難】
 1)ポイント
  1.自覚症状を訴えない乳幼児では、他覚所見により重症度を判定する。
  2.夜間に増悪することが多い。
  2)チェックリスト(以下の徴候は重症化の徴候でもあるので注意する。)
  1.乳幼児
      a)激しい咳      e)チアノーゼ
   b)著明な喘鳴         f)陥没呼吸
   c)不機嫌             g)鼻翼呼吸・肩呼吸
      d)頻呼吸
  2.年長児
   a)著明な呼気延長      e)呼吸音の減弱
   b)陥没呼吸            f)頻脈
   c)チアノーゼ          g)意識レベルの低下
   d)喘鳴の減弱
 3)主要疾患の特徴
  1.急性咽頭炎(仮性クループ)
   *ウイルス(とくにパラインフルエンザ)、細菌による上気道の炎症
   *咽頭部の炎症により閉塞性の呼吸困難となり、窒息することもある。
   *犬吠様咳嗽(バオバオ)、金属性咳嗽(ケンケン)、吸気性喘鳴、嗄声
    などがみられる。数時間後に軽快するが、夜間一進一退を繰り返す。
   *アドレナリンの注射、吸入。鎮咳剤、解熱剤、抗生剤の投与を行うが、
    吸入で軽快しない場合は、入院の適応であり、専門医へ
   *時に挿管が必要になる。
  2.細気管支炎
      *6カ月未満の乳児に多い。冬期に多く、50%がRSウィルスによる。
   *感冒様症状に始まり、2〜3日後に突然呼吸困難が出現する。呼気性喘
    鳴のため、喘息との鑑別が必要。喘息に比し、ボスミンに反応しにくく、
    有熱のことが多い。呼気延長が喘息ほどではない。
   *酸素投与、加湿、輸液にて加療する。
  3.気管支喘息
   *吸入歴のない子、水分摂取がほとんどできていない子には吸入をしない。
   *喘息発作で死亡することもあることを念頭におく。
   *基本的には成人の治療に準じる。
    a)ボスミン皮下注 
      乳児:0.1ml、学童0.15ml、中学生0.2ml 
    b)吸入(4〜5時間は間隔をあける)。
      アレベール 1ml
      ベネトリン 0.1〜0.3ml 
    c)ネオフィリン
     イ)5mg/kg+5%グル100mlを1時間で点滴静注。
     ロ)おさまらないときソリタT1に溶解して、1mg/kg/時間で。
   *重症例の場合は、専門医に依頼する。
  4.喘息様気管支炎
   *浸出性体質の乳児が気管支炎に罹患すると喘鳴を伴うことがある。必ず
    しも喘息になるわけではない。鼻汁も多く鼻・喉を吸引してやるとよい。
   *気管支炎、喘息に準じた治療をする。
    5.気道異物
   *突然の発症、異物の誤嚥のエピソードから、本疾患を考える。
   *ピーナツなどの豆類、あめ、チュウインガムなど
   *レントゲンで診断する。
    6.肺炎→発熱の項参照
   *流行期(オリンピックの年に多い)にはマイコプラスマ肺炎に注意する。
  7.その他
   *心臓性、中枢神経性、心因性(過換気症候群)
   
【脱水】
 1)ポイント
  1.小児、特に乳児では容易に脱水に陥る。 
  2.発熱・嘔吐・下痢の患者を診るときは、必ず脱水の有無をチェックする。
  2)チェック項目
  1.問診
   a)経口水分摂取量(普段の摂取量にくらべてどうかを聞くとよい)
   b)尿量(排尿回数、いつから排尿がないかを聞く)
   c)嘔吐・下痢の量と回数
   d)発汗の有無、啼泣時の涙の有無
   e)体重減少の有無
  2.臨床症状
  ------------------------------------------------------------------
                      軽   症     中 等 症     重   症      
   ------------------------------------------------------------------
    体重減少           5%         10%         15%        
    意識障害         (−)・不機嫌     傾 眠        昏  睡       
  痙攣の有無           (−)       (±)         (+)        
  脈拍               頻  脈      触れにくい      触れない       
    チアノーゼ           (−)         (±)         (+)        
  口唇乾燥             (+)        (++)      (+++)      
    turgor                ↓            ↓↓          ↓↓↓        
  大泉門・眼球陥凹     (−)         (±)         (+)        
  ------------------------------------------------------------------  
  3)治療
  1.軽症
   a)嘔吐がひどくなければ、水分摂取を指導する。湯ざまし、番茶などを少
    量ずつ頻回に与える。
   b)ソリタT3 顆粒 2〜3包
    *アイソトニック飲料(子供用)でもよい。
    2.中等症以上(できれば専門医へ依頼する。)
   a)開始液:ソリタT1 10ml/kg/時間。排尿がみられるまで続ける。
   b)倦怠感が強いときは
    20%グル40ml+ビタミンB1 10mg+ビタミンC 100mg
    c)維持輸液:検査データーを参考に
    ソリタT3 2〜4ml/kg/時間
   3.1日の維持必要水分量(ml/kg)
   新生児:60〜80、乳児:100〜120、幼児:80〜100
   学童:60〜80、成人:40〜50

【下痢】
 1)ポイント
  1.上気道感染に伴うことが多い。
  2.ウイルス性の下痢症がほとんど。
  2)チェックポイント
  1.下痢の量、回数、持続日数、便の性状を聞く。
  2.脱水の程度を診断し、中等度以上の場合には点滴を行う(→脱水)。
  3.血便を伴うものは細菌性の下痢(サルモネラ・カンピロバクターなど)の
   場合によく見られる。
  4.冬期に白色の水様下痢をみたらロタウイルスによるウイルス性嘔吐下痢症
   を考える。1歳前後に多い。
  3)治療
  1.脱水が軽度の場合は食事指導をして、帰宅させる。脱水が中等症以上のも
   のは専門医に転送する。
    2.食事指導
   a)悪心があっても、少しずつ水分を与え、下痢があっても、ほしがるよう
    なら果汁、ミルク(80%ぐらいにうすめて)、粥などやわらかいもの
    を与える。
      b)脱水にならないように、水分をすこしずつ与えることが大切。
  3.原則として、救急外来では下痢どめは投与しない。

【嘔吐】
 1)ポイント
  1.乳児ではまず、上気道炎(感冒)、飲み過ぎ、便秘を考える。嘔吐後、機
   嫌が良ければ心配ない。痰がからんで嘔吐することもよくある。
  2.冬に嘔吐と下痢をみたら、ロタウイルスによるウイルス性嘔吐下痢症を考
   える。
    3.嘔吐には重症の疾患が潜んでいることがあるので注意する。
  4.年齢を参考に鑑別する(下図参照)。
  0歳 1月  6月   1歳    3歳     6歳    10歳
   ---------------------------------------------------------------------
     **溢乳*********              *************自家中毒**************          
   幽門狭窄 **腸重積******************       
       ***ヘルニア(そけい)嵌頓*********     
                            **腸炎、感冒、虫垂炎、ウイルス性胃腸炎*** 
   脳腫瘍、髄膜炎、肺炎、尿路感染症、その他感染症******************                   
  ---------------------------------------------------------------------
  2)チェックリスト
  1.吐物の性状(食物残渣、血性、胆汁など)、嘔吐の仕方
  2.脱水の有無と程度
  3.排便の有無、便の性状(乳児で浣腸で血便がでたら、ほぼ腸重積)
  4.感染徴候の有無、
  5.検査項目(尿アセトン、BUN、Cr、血算、電解質、血沈など)
  6.腹部レ線
 3)主要な疾患
  1.自家中毒(周期性嘔吐症、アセトン血性嘔吐症):2〜10歳の神経質体
   質の児に多い。終日遊び、はしゃぎまわった翌朝に起こりやすい。過労が
   原因。突然ぐったりして、顔色不良となり、頻回に嘔吐する。初期よりケ
   トン尿を認め、低血糖はない。軽症であればゆっくり寝せるだけでよくな
   る。脱水があれば、水分を与える。中等症以上では20%グル20〜40
   ml静注、またはソリタT3 などの点滴を行う。
  2.急性虫垂炎:小児では症状は非定型的であり、診断は極めて難しい。24
   〜48時間で穿孔をおこしやすい。臍周囲痛ではじまり、次第に右下腹部
   に限局してくる。圧痛、筋性防御に注意すること。嘔吐・発熱を伴うこと
   が多い。
  3.腸重積症:離乳期〜3歳に見られ、乳幼児期のイレウスの大部分を占める。
   最初からショック症状を呈することもある。24時間以内の処置を必要と
   する。嘔吐、腹痛(間欠的腹痛・啼泣)、血便、腹部腫瘤(触れないこと
   も多い)が4徴。浣腸で血便が見られたらほぼ確定的(発症後6時間以降
   にみられる)。透視下の高圧浣腸による整復で6〜7割は良くなるが、専
   門医に依頼する。

  4)治療
  1.浣腸
   a)グリ浣を半分にうすめて使用する。(乳児にはコヨリ浣腸もtry)
   b)3カ月まで(10ml)、1歳まで(20ml)、幼児(30〜40
     ml)、学童(40〜60ml)
  2.食事療法
   a)おさまるまでは湯ざましやアイソトニック飲料など水分だけ。
   b)吐いても、ほしがったら何回でも与える(コップ半分くらいずつ)。
  3.薬物療法
   a)プリンペランシロップ
   b)ナウゼリン坐薬
    4.脱水のひどいときは点滴を行う→脱水。
    
【腹痛】
 1)ポイント
  1.腹部の触診は、患者の表情、反応を注意深く観察しながら、繰り返し行う。
  2.乳児では、急に不機嫌になり、顔色が悪く、吐く様なとき腹痛の存在を疑う。
  2)チェックポイント
  1.腹痛の部位と性状
  2.臨床症状:嘔吐、下痢、腹部膨満、圧痛、筋性防御、発熱など
    3.検査:尿(特にアセトンの有無)、血算、アミラーゼなど
  4.腹部レ線
 3)鑑別すべき疾患と特徴
  1.機能的(心因性)腹痛:浣腸で良くなることが多い。
  2.便秘
  3.急性虫垂炎:嘔吐の項参照
  4.腸重積症:嘔吐の項参照
    5.血管性紫班病:四肢の紫斑に注意する。腹痛が先行することがある。
  6.周期性嘔吐症:嘔吐の項を参照
    7.ウイルス性胃腸炎:嘔吐・下痢を伴うことが多い。臍部に圧痛を認めるが、
   腹部はやわらかい。
  8.その他、急性膵炎、尿路感染症など
  4)治療
  1.浣腸
  2.鎮痛剤の投与:診断前にはできるだけ使用しない。
  3.周期性嘔吐症、急性胃腸炎などで脱水が中等度以上の時は点滴を行う。
  4.診断がつかない時、激しい腹痛の時、外科的疾患の時、一般状態が不良な
   ときなどは専門医へ転送する。

【痙攣】
 1)ポイント
  1.小児の10%に見られる。その90%は熱性痙攣で、残りがてんかん。
  2.診察時、痙攣が止まっているか止まりつつある時は、直ちに抗痙攣剤を使
   用する必要はない。
    3.痙攣重積状態の時は、痙攣を止める治療が優先する。
  4.熱性痙攣では、来院するまでに止まってしまうことが多い。
  5.髄膜炎・脳炎によるものを鑑別することが特に大切。
 2)チェックポイント
  1.痙攣の既往、治療歴。
    2.随伴症状の有無:発熱、嘔吐、頭痛、意識障害など
  3.痙攣のタイプが以下のいずれかのときは精査が必要。
    @6カ月以内、A学童になってもみられる、B10分以上持続 
    C家族歴なし、D熱がないのにおこす、E発作が非対称性
    4.項部硬直、Kernig、眼振、瞳孔反射の異常などに特に注意する。
 3)主要疾患の特徴
  1.熱性痙攣:1〜3歳に好発。原因はわかっていない。脳波は正常。家族歴
   があることが多い。発作は2〜3分。学校に入る頃には見られなくなる。
   痙攣の性状のみからは、他の疾患と鑑別できない。
    2.ビタミンK欠乏症:1〜3カ月の乳児に見られる。母乳栄養児に多い。夏
   に多く、また南の方で多い。
  3.ロタウイルス下痢症でまれにみられる。
    4.てんかん:成人の痙攣の項を参照
  4)治療
  1.痙攣発作時
   a)舌を噛むような事はほとんどなく、歯の間に物をいれる必要はない。ま
    た名前を呼んだり、揺すったりすることはしてはいけない。
      b)安静臥床、頭を低くし、誤嚥を防止するため、顔を横に向ける。
   c)バイタルサインをチェックし、気道確保する。
   d)必要に応じ、吸引・酸素吸入を行う。
   e)セルシン 0.3mg/kgをゆっくり静注。呼吸抑制に注意。血管確保
    に手間取る場合は、0.5mg/kgを注腸。
  2.痙攣がおさまっている場合
   a)熱性痙攣の場合は、解熱剤を処方する。       
      b)髄膜炎、脳炎などが疑われるときは、専門医へ

【発疹】
 1)ポイント
  1.発熱の有無を確認する。
  2.伝染性疾患を疑ったら、以下の事を確認する。   
   a)患者周囲の流行状況をきく。兄弟、近所の友達、幼稚園、学校など。
   b)患者の予防接種歴を聞く。
   c)診断名に自信がないときや確定できないときは、「ウィルス性のものが
    疑われる」とムンテラし、翌日小児科受診を指導する。
     d)治療は合併症がなければ、対症療法のみでよいことが多い。
 2)主要疾患の特徴
  1.突発性発疹
    *ほとんどの子供がかかる。2度かかる子供もいる。好発年齢は6カ月
     〜1歳。初めての高熱のことが多い。高熱の割に、全身状態は良好。
    *原因はヒトヘルペスウィルス。潜伏期間10〜15日。
    *3日間38〜39℃の発熱が見られた後、4日目に解熱すると同時に
     全身に発疹が出現する。躯幹にはじまり、末梢にひろがる。持続は2
     〜3日。しばしば下痢を伴う。熱性痙攣のみられることがある。
    2.麻疹
        *潜伏期は10〜12日。好発年齢1〜3歳。
    *熱とカタル症状(めやに・咳・くしゃみ)で始まる。ついでコプリッ
     ク班(臼歯近くの頬粘膜と歯肉に見られる中心が白色の小赤色点)、
     そして2日後より発疹が出現する。
        *発疹は紅色の丘疹で、初めhair line から前額部、耳後部に出現し、
     その後3日でほぼ全身に広がる。色素沈着を残す。
    *発疹出現の前後4日間は感染力を有す。5日目からは集団生活可。
    *発疹出現後2日〜3日で、解熱し快方に向かうのが普通。この時期を
     過ぎても、高熱が持続したり呼吸困難、痙攣がある時は合併症を考え
     る。合併症として、中耳炎、肺炎、脳炎がある。
    *治療は対症療法。2次感染予防のため、抗生剤を投与することもある。
    3.風疹(rubella)
        *潜伏期は2〜3週間。好発年齢は3〜10歳。発症7日前から5日後
     まで感染力を有するので、発症後5日間隔離する。
    *リンパ節腫脹。3日間の発疹を特徴とする。発疹はまず顔面に現れ、
     普通1日で全身に広がる。2日目には早くも顔面の発疹は消退する。
    *熱は軽度のことが多い。
    *合併症:関節炎、紫班病、脳炎。
        *治療は対症療法。小児では最も良性の感染症である。
    *患児の母親の妊娠の有無に注意!
  4.水痘(chickenpox)
    *潜伏期は11〜20日。好発年齢2〜6歳。
    *軽度の発熱と同時に体幹に小丘疹ができ、その中心に水疱ができる。
        *皮疹は体幹に多く、集簇性で、あらゆる段階の皮疹が同時に存在する。
    *発疹は、結膜、口腔粘膜に及ぶ。
    *解熱剤を用いるときは、アスピリンは避ける。
        *すべての発疹が乾燥し、痂皮化するまでは感染力があるので登園不可。
   5.伝染性紅斑(りんごほっぺ病)
       *2〜12歳の小児、特に学童に好発。
    *りんごほっぺ病とも呼ばれ、顔面に蝶型紅斑を認める。
    *顔面の発疹に1日くらいおくれて、四肢に紅斑が出現する。
    *特に治療を必要としない。
  6.手足口病
    *手掌・指・足底・趾・踵などに、硬い小水疱を伴う丘疹が出現する。
    *口唇、頬粘膜、舌に小水疱が生じ、自壊してアフタ様になる。
    *対症的に加療する。
  7.猩紅熱(scarlet fever)
    *A群溶連菌感染に、生体側の要素が関与して発症する。
    *3〜6歳に多い。冬から春にかけて多く、夏は少ない。
    *発熱、咽頭痛で発症し、腹痛や嘔吐も時々訴える。
    *莓舌、口囲蒼白、頚部リンパ節腫脹を認める。
    *発疹は、細かい紅斑様点状発疹で腋窩・側胸部・大腿内側に出現、次
     第に全身に広がる。回復期に落屑が出現する。
        *合併症:中耳炎、肺炎、リウマチ熱、腎炎
    *治療は抗生剤の投与と安静、対症療法。
    8.川崎病
    *発熱・発疹とリンパ節腫脹を主訴として来院することが多い。4歳以
     下であれば、まず川崎病ではないかと疑うことが大切。
        *診断基準
     1)原因不明の発熱が5日以上続く。     
     2)四肢末端の変化(手足の硬性浮腫、掌蹠または四肢先端の紅斑)
          3)水疱、痂皮を形成しない不定形の発疹。 テカテカパンパン
          4)両側眼球結膜の充血
     5)口唇の紅潮・莓舌・口腔粘膜発赤
     6)頚部リンパ節腫脹
          以上6項目中5項目以上あれば本症として扱う。
    *入院治療が必要であり、専門医を紹介する。

 [参考]
     流行性耳下腺炎(mumps)
        *潜伏期は約3週間。不顕性感染が30〜40%。
     *耳下腺腫脹の前後数日間は感染力を有する。耳下腺腫脹の消失するま
     で隔離する。耳下腺のほか顎下腺、舌下腺が腫脹することもある。
    *耳下腺腫脹は両側性が多いが、片側性もある(25%)。
    *発熱と同時に耳下部痛を訴えることが多い。
    *合併症は髄膜炎(10〜15%)、睾丸炎・副睾丸炎(20〜30%)
          ほかに、卵巣炎、膵炎、甲状腺炎
     *治療は対症療法。

【異物誤飲】
 1)たばこ
  *ニコチン 20〜30mg/本、幼児の致死量=10〜20mg
  *にがいので多量の誤飲はまれ。またたいていは食べた後吐く。
    *水か牛乳を飲ませ、嘔吐させる。必要なら胃洗浄。
 2)ナフタリン
  *牛乳は禁忌。胃洗浄して、下剤を投与する。
 3)誤飲しても心配ないもの
  *少量のたばこ、体温計の水銀、パラゾール防虫剤、マッチ、ゴム製品
  *不明のときは中毒センターに問い合わせる。
    中毒センター 大阪 06−451−9999
           筑波 0298−52−9999
 4)消化管異物
  1.金属性のものなら、レントゲンで確認する。
  2.食道異物(魚骨、硬貨が多い)は、摘出するか胃内へ落とす。
  3.胃内異物はほとんど自然排泄されるが、処置は専門医にまかす。
  4.緊急の処置が必要なことは希であるが、水銀電池は8時間以内に摘出する。
    
【頭部打撲】
 1)ポイント
  1.頭蓋内出血、急性硬膜外出血に注意する。
  2.ギャーと泣いた、異常反射(−)、項部硬直(−)、目の所見(−)なら
   まず大丈夫だが、あとから症状のでることもあるので、24時間は要注意。
  3.嘔吐(+)、意識障害(+)、顔色が悪い、痙攣(+)、目症状(+)、
   異常反射(+)、lucid interval が認められた症例ではCTを取る。異常
   所見がなくてもあやしければ脳外科へ。
  4.明らかに異常のときはCTを取る前でも脳外科へ。

【その他の疾患】
  1)排尿痛
  1.大部分は亀頭包皮炎。消毒と抗生剤投与で良くなる。
  2.女児では、尿道炎、膀胱炎が多い。
 2)血尿
  1.ウイルス性出血性膀胱炎
  2.急性腎炎

【予防接種後の副作用】
 1)三種混合(DPT:ジフテリア・百日咳・破傷風)
  1.注射部位の腫脹:自然経過で1週間以内に、約80%は腫脹が消失する。
   局所の冷却、消炎外用薬の塗布を行う。
  2.ジフテリアトキソイド:定期接種の年齢では多少の熱以外の副作用は普通
   見られない。
   3.破傷風トキソイド:疼痛、局所反応が第2回以降だんだん強くなる。
  2)新三種混合(MMR:麻疹、流行性耳下腺炎、風疹)
  1.麻疹ワクチン:7〜10日後に発熱、発疹などの軽症麻疹様の反応をみる
   ことがある(20〜40%)。                                      
    2.風疹ワクチン:ほとんどない。成人でまれに発疹、関節痛
  3)BCGワクチン:局所の丘疹、小水疱
 
【肘内障】
 1)ポイント
  1.乳幼児期に多く、学童期には少なくなる。
  2.手をつないでいた親が、急に腕をひっぱったり、捻ったりしておこる。
  3.容易に修復できる。
 2)チェックポイント
  1.腕を痛がって動かさない、手を上げない。
  2.肘関節に発赤・腫脹がない。
  3.骨折、脱臼を除外(上肢X−P)    
  3)処置
  1.徒手整復法(右腕):術者の左母指を患児の橈骨骨頭部にあて、右手で患
   児の前腕を握り、肘関節部を屈曲させるか前腕を回外させれば、左母指先
   端にピチッという音が伝わって整復される。
  2.整復と同時に痛みは消失し、上肢の動きが可能となる。
  3.癖になることがあるが、自然と起こりにくくなる。 

【小児薬用量】
 1)Ausbergerの式
                          4×年齢+20
        小児薬用量=成人量×------------------                          
                                100
  2)Harnack換算表
   ---------------------------------------------------------------
        年齢     新生児  6カ月 1年 3年 7.5年 12年 成人
      --------------------------------------------------------------- 
        成人量× 1/10-20   1/5    1/4   1/3    1/2      2/3     1
      ---------------------------------------------------------------   
  
 3)坐薬
  1.アンヒバ(アセトアミノフェン 100mg/個)
   1歳未満:1/2個、1〜3歳:1/2〜1個、3〜6歳:1個
  2.インダシン(25mg/個)
   幼児:1/2個、学童:1/2〜1個
  3.ナウゼリン(10mg/個)
   3歳未満:1回10mgを1日2〜3回
   3歳以上:1回30mgを1日2〜3回
 4)シロップ(1日量)
  1.ポンタール(鎮痛解熱剤:1mlメフェナム酸 32.5mg)
    0.6ml/kg 3×1 
    2.ペリアクチン(抗ヒスタミン剤:1ml塩酸シプロヘプタジン0.4mg)
    新生児:2ml、6カ月:6ml、1歳:7ml、3歳:10ml
    7歳:15ml、12歳:20ml、成人:30ml
  3.アスベリン(鎮咳剤:クエン酸チペピジン5mg/ml)
    新生児:3ml、6カ月:4ml、1歳:6ml、3歳:8ml
    7歳:12ml、12歳:18ml、成人:24ml
  4.イノリン(交感神経刺激剤:塩酸トリメトキノール1mg/ml)
    1歳未満:1〜2ml、1歳:2ml、3歳:4ml、7歳:6ml、
    12歳:9ml 
  5.ビソルボン(気道粘膜溶解剤:塩酸ブロムヘキシン4mg/2ml)
    新生児:0.5ml、6カ月:1ml、1歳:1.5ml、
    3歳:2ml、7歳:3ml、12歳:5ml、成人:6ml
  6.プリンペラン(鎮吐剤:メトクロプラミド1mg/ml)
    6カ月:6ml、1歳:8ml、3歳:10ml、7歳:13ml
    12歳:15ml、成人:20ml
  7.ルルシロップ(3ml中 マレイン酸クロルフェニラミン0.5mg、ア
   セトアミノフェン25mg、サリチルアミド45mg、無水カフェイン5
   mgを含む)
        2〜4歳:9〜12ml、5〜8歳:18〜24ml、9〜12歳:2
    7〜36ml
    8.抗生剤  
   a)セドラールドライシロップ:20〜40mg/kg/3×1
   b)エリスロシンドライシロップ:25〜50mg/kg/4〜6×1 


・参考文献
 1.太田喜久夫ほか:当直医マニュアル 医歯薬出版 1988
 2.松村忠樹:小小児科学 金芳堂 1976
 3.肥田野信:カラーアトラス 小児皮膚疾患100例 日本医事新報社 1975 
                              

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