【脱水症】
A)脱水症とは主として、水分及びナトリウム(Na)が欠乏した状態。一般的
に、水分欠乏とNa欠乏に分類され、典型的な症状は表1のごとくであるが、
臨床的には両者の混合タイプとして扱うのが実際的で、分類にこだわるべき
ではない。
B)診断と重症度の判断
1)通常下記のような病歴から脱水症の診断は容易。
1.下痢、嘔吐、発汗など体液喪失の原因がある場合
2.食事や水分の摂取が不十分な場合
2)重症度の判断(大まかな把握で十分、細かな計算は不要)
1.重 症:高度の血圧低下、ショック、意識障害などが認められるもの。体
重の約10%の欠乏と考える。
2.中等症:バイタルは安定しているが、皮膚の状態、目のくぼみなどの症状
から脱水が明らかなもので、体重の約6%前後の欠乏と考える。
3.軽 症:あまり症状のはっきりしないもので、体重の約2%程度の欠乏と
考える。
3)治療
1.とりあえず、ラクテックなどの細胞外液に類似した輸液を開始する。
重症例では500ml/hr、それ以外は500ml/2〜4時間前後。
2.血管確保時にできれば採血を行い、血算、電解質などをチェックする。
3.中等症以上では、バルーンカテーテルを留置し、尿量の推移を見ながら、
以後の輸液を決めていく。
4.血圧が維持されている場合は、1/2生食程度の輸液を中心に投与する。
5.輸液量は1日量として、2リットルをベースとし、それに加えて軽症では
0.5〜1リットル、中等症では1〜2リットル、重症では2〜4リットル
を目安とする。
6.時間尿量が20mlをこえたら、輸液にKを追加する。Kの1日あたりの
必要量40mEqを参考に検査結果をみて投与量を決定する。KはKCl
の形で投与することが好ましい。
7.重症例では、CVPを見ながら管理することもあるが、中心静脈が確保し
にくいときは、末梢から輸液を開始後、アプローチするのもよい。
8.脱水の原因がはっきりしない場合には、上記の処置後、原因検索を行って
いく。
表1 水分欠乏(高張性脱水)とNa欠乏(低張性脱水)の比較(Marriott)
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症 状 pure water depletion pure salt depletion
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口 渇 (+++) (−)
倦 怠 感 (+) (+++)
立ちくらみ 末期になるまで(−) (+++)
尿 量 乏 尿 末期になるまで正常
尿中NaCl 多くは(+) (−)
血漿NaCl 軽度上昇または減少 減少(+++)
嘔 吐 (−) (−)〜(+++)
痙 攣 (−) (−)〜(+++)
BUN上昇 (+) (+++)
血 漿 量 末期になるまで正常 減少(+++)
血 液 濃 縮 末期になるまで軽度 低下(+++)
血 圧 末期になるまで正常 低下(+++)
水 吸 収 速 い 遅 い
病 態 浸透圧↑、細胞内脱水 末梢性循環不全
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表2 各種分泌液の電解質組成
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Na K Cl H HCO3
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汗 30-50 5 45-55
胃 液 40-65 10 100-140 90
膵 液 135-155 5 55-75 70-90
胆 汁 135-155 5 80-110 35-50
腸 液 120-130 10 50-60 50-70
下 痢 25-50 35-60 20-40 30-45
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・参考文献
1.内科治療マニュアル(第4版) MEDSi 1987
2.和田孝雄:脱水症 Medicina Vol.26 No.7 1989 医学書院
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