【意識障害】
A)状態の把握
1)意識レベル
1.3−3−9度方式により大まかな目安をつける(主として清明度の判定)。
2.グラスゴー方式は頭部外傷を中心にその重症度と予後との相関にすぐれる。
3.上記により表現し難い意識障害は、他の表現法も併用する。
2)生命徴候の把握と最も緊急に行うべき検査
1.呼吸:正常、失調性、中枢性過換気、Cheyne-Stokes 、Kussmaul大呼吸、
無呼吸、呼吸困難−吸気性・呼気性、その他
2.循環:血圧、心電図、胸部X−P
3.血液ガス、血算、血糖、電解質(Na・K・Cl・Ca)、BUN、
クレアチニン、アンモニアなどをチェックする。
B)救急処置
1)気道確保:下記の場合は原則として、気管内挿管による気道確保を行う。
1.呼吸が正常以外のもの
2.血液ガスでPaO2≦50torrまたはPCO2≧50torr
2)治療可能な代謝性意識障害の治療
1.この処置はA)で挙げた以外の全ての診断的検査(CTなど)に優先する。
2.ラクテックにて血管確保を行ない、
1)50%グル20〜40ml静注(低血糖が否定できない時)
2)ヌトラ−ゼまたはアリナミンF50〜100mg静注(ウェルニケ脳症の
予防と治療:低栄養状態にある患者にブドウ糖を投与すると、ウェルニケ
脳症が誘発されることがある)。まれにショックになるので注意!
3)呼吸及び循環管理
1.一般的救急に準じる。
2.原因疾患によって幾分対応が異なるので、原因の究明を急ぐ。
3.脳血管障害が疑われる時の低張液(5%グルなど)の大量輸液は脳浮腫を助
長するので禁!。
4.脳血管障害が疑われる時の血管拡張剤(アダラ−トなど)による降圧は、脳
浮腫ひいては脳ヘルニアを誘発するので極めて慎重に行なう。
5.血液ガスその他で乳酸アシドーシスが疑われる時は、補液を乳酸の入らない
ものに変更する(アクチットなど)。
注)以上を行いながら病歴を聴取する(分担して行うとよい)。
C)身体所見および診断的検査
1)神経学的所見
1.別紙(P17)の順序で所見をできるだけすみやかかつ漏れなくとる。
2.意識障害があるときはどうしても取れない所見があるので、その際は必要最
小限にとどめる。所見とりに多くの時間を費やさないように注意する。
2)頭部CT
1.意識障害のある患者はほぼ全例適応となる。
2.造影しないで1cm間隔で、主としてテント上をねらってとる。
3)髄液検査
髄膜炎(発熱・頭痛・髄膜刺激症状など)が疑われ、うっ血乳頭がない時に
行なう。必ずしも緊急性はない。
D)鑑別診断
1)原因による分類
1.原発:頭部外傷(脳挫傷・硬膜外血腫・硬膜下血腫)、脳血管障害、感染症
(髄膜炎・脳炎・脳膿瘍)、腫瘍、てんかん(重積)
2.循環器系:Adams-Stokes症候群、心不全、急性心筋梗塞
注)持続性の意識障害がくるのは、心停止やショック等により脳の虚血を
きたした場合に多い。
3.呼吸器系:気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(低酸素血症または高CO2血症
に続発する)
4.代謝性:低血糖、糖尿病性昏睡、肝性昏睡、尿毒症性昏睡、急性アルコ−ル
中毒、電解質異常(Na・Ca)、乳酸アシドーシス、ビタミンB1欠乏
5.その他:薬物中毒(農薬・精神安定剤・麻薬)
6.特殊な原因:甲状腺クリ−ゼ、急性副腎不全、甲状腺機能低下症、多発性硬
化症、Reye症候群(小児)、Leigh 症候群
2)診断への道筋
1.頭部CTにて診断可能な疾患
クモ膜下出血、脳内出血、硬膜外血腫、硬膜下血腫
注)脳梗塞は、発症後6〜24時間経たないと診断出来ないことが多く、
病歴、神経学的所見が極めて重要。
2.血算、生化学的検査などにて診断可能な疾患
低血糖、糖尿病性昏睡、尿毒症性昏睡、肝性昏睡、電解質異常、乳酸アシド
ーシス
注)これらが脳血管障害に併発していることもあるので注意!
注)代謝性疾患には基礎疾患がかくれている可能性が高いので注意!
3.病歴が極めて重要な診断根拠となる疾患
急性アルコ−ル中毒、薬物中毒
注)これらは病歴が不明の場合、しばしば診断困難となる。
4.以上にても診断が不明で、呼吸・循環系にも異常がない場合は、希な疾患も
考慮に入れつつ最初から鑑別に抜けがないか再検討する。
・参考文献 脳血管障害の項にまとめて記載
[3−3−9度方式(太田ら)による意識障害の分類]
1)刺激しないでも覚醒している状態(1桁で表現)
1)大体意識清明だが、今1つはっきりしない。
2)見当識障害(時・場所・人)がある。
3)自分の名前、生年月日がいえない。
2)刺激すると覚醒する−刺激をやめると眠り込む状態。
10)普通の呼びかけで容易に開眼する。
20)大声または体をゆさぶることにより開眼する。
30)痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと辛うじて開眼する。
3)刺激をしても覚醒しない。
100)痛み刺激を払いのけるような動作をする。
200)痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめたりする。
300)痛み刺激に反応しない。
R:Restlessness(不穏状態)、I:Incontinence(失禁)
A:Akinetic mutism(無動性無言)、Apallic state(失外套症候群)
[グラスゴー方式(Glasgow coma scale)]
A)開眼(eyes open)
自発的に(spontaneous) 4
音声により(to sound) 3
疼痛により(to pain) 2
開眼せず(never) 1
B)発語(best verbal response)
指南力良好(orientated) 5
会話混乱(confused conversation) 4
言語混乱(inappropriate words) 3
理解不明の声(incomprehensible sounds) 2
発語せず(none) 1
C)運動機能(best motor response)
命令に従う(obeys commands) 6
疼痛部認識可能(localize pain) 5
四肢屈曲反応(flexion)
逃避(withdrawal) 4
異常(abnormal) 3
四肢進展反応(extension) 2
全く動かず(none) 1
注1:A+B+C=3〜15(最重症は3点、最軽症は15点)
注2:B、Cは繰り返し検査したときの最良の反応とする。
[意識状態の見方]
1)昏睡状態(Comatose State)
1.昏睡(coma):いかなる刺激にも反応しない。
2.半昏睡(semicoma):皮膚を針で強く刺激して痛みを加えると手足を動か
したり、顔をしかめていやがるような動作を示す。
3.昏迷(stupor):種々の刺激に反応し刺激を避ける動作をする。ときに追
い払おうとする。刺激を続けると簡単な質問や指示に応じることもある。
4.傾眠(somnolence):ほおっておくと眠っているが、種々の刺激で目を覚
まし、質問に答えたり動作を行う。
2)錯乱(confusion):意識はあるがなんとなくぼんやりしている。普段と様
子が違う。周囲に対する認識や理解は低下し、思考の清明さや記憶の正確
さも失われている。
3)せん妄(dellirium):錯乱と錯覚(illusion)、幻覚(hallucination)
あわてふためき(panic)などが一緒になった状態。恐ろしい、被害的な観
念が涌いてきたりして、患者は大声をあげ暴れることがある。
4)無動性無言(akinetic mutism)失外套症候群(apallic syndrome)
いずれも開眼し、一見覚醒しているようにみえながら言葉を出さず、眼球
運動を除いて自発的な身体の動きがない状態。病変の部位により、前者は
網様賦活系の部分的障害に基づき種々の意識障害を伴うもの、後者は広範
な大脳白質、皮質病変によるものとされるが鑑別は容易ではない。
[髄液検査について]
疾 患 名 外 観 圧 細胞 種類 蛋白 糖
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正 常 値 水様透明 70-180 0〜5/3 15-45 50-80
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化膿性髄膜炎 混濁〜膿性 ↑↑ ↑↑↑ 多核球 ↑↑↑ ↓↓↓
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ウィルス性髄膜炎 透明〜微塵 ↑ ↑↑ 単核球 ↑ →
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結核性髄膜炎 水様透明 ↑↑ ↑↑ 単核球 ↑↑ ↓
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真菌性髄膜炎 水様透明 ↑↑ ↑↑ 単核球 ↑↑ ↓
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腫瘍の髄膜浸潤 透明〜混濁 →〜↑ →〜↑ 単核球 ↑↑ ↓↓
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脱 髄 疾 患 水様透明 → ↑ 単核球 ↑ →
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ギランバレー 水様透明 → → 単核球 ↑↑ →
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クモ膜下出血 血 性 ↑
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