もどる

このページは、私が貧血の患者さんを診たときに、どのようにして診断して行くかの思考ルーチンをおおまかにまとめたものです。専門的な用語がでてきますので、少々難しいかもしれませんが、良かったら参考にして下さい。
T貧血の診断について
 貧血は、厳密には循環血液量の減少した状態と言うべきですが、日常臨床では血液のヘモグロビン濃度(以下Hb)が正常域以下に低下した状態と考えて問題ありません。成人では男性13g/dl、女性12g/dl以下であればこれに該当しますが、高齢者では生理的にHbの低下を認めるため、11g/dl以下を貧血と考えるのが妥当かと思います。検診では正常値以下をすべて貧血と判定するため、赤血球数やヘマトクリット値(以下Ht)が正常値より低い場合などにすべて貧血と診断され、精査目的で外来を紹介されますが、上記基準に該当しない場合には、他の血球系(白血球数・血小板数)に異常がなければ、特に治療の対象とならないことがほとんどです。
 @貧血の鑑別診断に入る前に注意しておきたいのは、白血球数、血小板数の異常の有無です。赤血球系、白血球系、血小板系の2系統以上に異常が認められるときには、骨髄異形成症候群、白血病、骨髄増殖性疾患などの重篤な血液疾患の可能性があります。特に白血球数が増加し、赤血球数・血小板数が減少している時には白血病の疑いがありますので注意が必要です。一方肝疾患などで脾腫がある場合には、脾機能亢進症による汎血球減少(pancytopenia)や2血球減少(bicytopenia)がみられますので、2系統以上の減少が見られた場合は、脾腫の有無を確認する事が大切です(腹部超音波検査が有効)。
 A貧血の診断にあたり、最初に注目する項目は平均赤血球容積(以下MCV)です。MCVは赤血球の大きさをあらわす指標で、MCVの値により貧血を3つのグループに分類し、診断していきます。最近では検査センターからの報告にMCVの項目が含まれていることが多いので、自分で計算する必要はありませんが、計算する場合は、Ht(%)÷赤血球数(万)×1000で算出出来ます。MCVの正常値は80〜100で、
  • 80以下であれば小球性貧血
  • 80〜100であれば正球性貧血
  • 100以上であれば大球性貧血
と診断します。
 BMCVの次に注目する項目はMCVの値によって異なってきます。MCVが80以下の小球性貧血であれば、フェリチン値に注目します。フェリチン値は貯蔵鉄の量を反映するため、
  • フェリチン値<12ng/mlであれば、鉄欠乏性貧血と診断できます。従来、血清鉄(Fe)や総鉄結合能(TIBC)が重要視されていました。現在でも診断の確定及び鑑別のために、初診時にこの2項目の測定も行いますが、鉄欠乏性貧血の診断及び治療においては、フェリチン値がはるかに重要な意味を持っています。鉄剤投与後の血清鉄の測定は、鉄剤の投与により影響を受けてしまいますので無意味と言えます。また、UIBCはUIBC=TIBC−Feの関係から計算により算出できますので一緒に測定する必要は全くありません。
  • フェリチン値≧12ng/mlの時は血清鉄の値に注目し、低下していれば、慢性疾患(慢性炎症・感染・腫瘍など)に伴う貧血(Anemia of Chronic Disease:ACD)、正常または増加していれば鉄芽球性貧血かサラセミアを考えます。
 CMCVが80〜100の正球性貧血では、まず網状赤血球数(正常値は約1%で、絶対数では4〜8万/μl)に注目します。
  • 網状赤血球が増加していれば、急性の出血か溶血性貧血が考えられます。急性出血の場合は出血の部位に応じた症状が認められますので鑑別は容易ですが、溶血性貧血では間接ビリルビンの上昇や血清ハプログロビンの低下からその可能性を確認し、クームス試験(自己免疫性溶血性貧血)、赤血球抵抗試験(遺伝性球状赤血球症)、砂糖水試験・ハムテスト(発作性夜間血色素尿症)などを行い診断していきます。
  • 網状赤血球数が正常の場合は、白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群などの疾患を鑑別しなければなりませんので、骨髄穿刺を行い、専門医による診断が必要となります。また、腎疾患や内分泌疾患などの時に見られる貧血もこのグループに入りますので、診断が一番大変なのが、このタイプの貧血です。
 DMCVが100以上の時には、ビタミンB12及び葉酸を測定し、低値を示せばそれぞれビタミンB12欠乏性貧血(悪性貧血など)、葉酸欠乏性貧血と診断できます。これらが低値を示さないときには肝障害による貧血、あるいは広節裂頭条虫による貧血などが鑑別の対象疾患となります。また、赤白血病や骨髄異形成症候群の可能性もありますので骨髄像のチェックが必要です。この際、骨髄穿刺前にビタミンB12の投与や輸血を行わないことが大切です。ビタミンB12や輸血により骨髄像が著明な影響を受けてしまう事があるからです。一方、急性出血の回復期や溶血性貧血でも大球性貧血のパターンをとることがありますので、網状赤血球が増加している時には急性出血や溶血の有無の確認が必要です。