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 お酒は「百薬の長」などと言われ、適量であれば、ストレスを解消し、食欲を増し、睡眠を促し、動脈硬化を予防するなどの作用がありますが、飲み過ぎれば肝臓や膵臓に悪影響を及ぼします。日本人のお酒の消費量は年々増加し、1990年には1960年頃の約6倍にもなりました。その後はほぼ横這いからわずかに増加という状態ですが、食生活の変化に伴い、アルコール性の肝障害は増えてきております。
アルコールの代謝  体に入ったお酒が、その後どうなるかについて触れてみます。アルコールは、胃・十二指腸・小腸で吸収され、肝臓に運ばれます。肝臓へと運ばれたアルコールは、主に(80%)アルコール脱水素酵素によって、アセトアルデヒドに分解されます。アセトアルデヒドは、アセトアルデヒド脱水素酵素によって酢酸に分解され、酢酸は、炭酸ガスと水に分解され、最終的には、尿や呼気によって体外に排泄されます。
「二日酔い」って? 二日酔いとは、アルコールを飲み過ぎて、アセトアルデヒドが分解されずに残った状態です。体重60kgの成人男性で、無毒化できるアルコールの量は、1時間に6〜9gですので、日本酒1合(約23gのアルコール)を無毒化するには3〜4時間もかかります。従って、飲み過ぎれば誰でもあのつら〜い二日酔いになってしまいます。
お酒の強い・弱いはなにが違うの?  アセトアルデヒドを分解するアセトアルデヒド分解酵素(ALDH)には、4つの種類がありますが、そのなかで一番主要な働きをしているのがALDH2です。このALDH2には、酵素活性の強いALDH2-1と活性の弱いALDH2-2の2つのサブタイプがあります。両親からこのALDH2のどれか一つずつもらいますので、どの組み合わせで持っているかにより、お酒に強い・弱いが決まります。ALDH2-1を2つ持っている人はお酒に強い人(45%)、ALDH2-2を2つの人が全く飲めない人(10%)、ALDH2-1とALDH2-2を1つずつ持っている人(45%)は飲めないわけではありませんが、あまり強くない人と言うことになります。飲めるタイプの人はどうしても酒量が増えてしまうので、アルコール性肝臓障害を起こしやすくなります。アルコール性肝臓障害の85%がこのタイプの方です。
お酒が強くなる?  アルコールの代謝には、もう一つミクロゾームエタノール酸化系という代謝経路があり、お酒を飲み続けるとこの代謝能力が向上します。この経路が関与するのは、アルコール代謝の20%ですので、いくら訓練してもお酒の弱い人が酒豪になることはないでしょう。
お酒の害  アルコールの取りすぎは、胃炎・急性膵炎・慢性膵炎・口腔や食道の癌を引き起こすほか、痛風・高血圧症などの悪化にも関与しますが、一番問題になるのは、肝障害でしょう。大量の飲酒を続けていると肝臓の細胞内に中性脂肪がたまっていきます。肝臓の細胞全体の30%以上に脂肪の塊が沈着した場合を脂肪肝と言います。
 脂肪肝の原因には、色々ありますが、アルコールを毎日3合以上飲み続けると数年でアルコール性脂肪肝になると言われています。さらに飲酒を続けていくと、アルコール性肝線維症やアルコール性肝炎に進展します。前者は肝細胞の周囲に線維が増加していくもので、後者は肝細胞がアルコールのために変性・壊死を起こした状態です。いずれの場合も進行するとアルコール性肝硬変となります(5合以上を10年間飲み続けると危ないと言われています)。
 肝硬変は、肝細胞の破壊が繰り返されることにより組織の線維化が進み、肝臓が硬くなった状態で、こうなると肝臓は正常の働きができなくなり、生命に係わる状態となります。これらの肝障害の問題点は、自覚症状がほとんどないか、あっても軽度のだるさ・食欲不振程度で、あまく見ているうちに肝障害が進行し、気がついたときにはすでにかなり重症という事が少なくないことです。唯一職場検診などの時に行われる肝機能検査がその存在を発見するチャンスです。
肝機能検査について 肝機能検査は、職場検診などでよく行われていますので、皆さんおなじみの項目ですが、アルコール性肝障害では、GOT・GPT・γGTPが注目すべき検査値です。GOTとGPTはどちらも肝細胞の中に含まれている酵素で、肝細胞の破壊が多いと高値となります。γGTPも酵素の一つですが、アルコールの摂取に敏感に反応し、日本酒で2合以上の飲酒を毎日続けると上昇すると言われています。肝障害の程度が軽いうちはGOT・GPTの変化は認められませんので、飲酒歴とこれら検査値の組み合わせで、肝障害の程度を推定する事はある程度可能ですが、正確な診断には腹部超音波検査などのより詳しい検査が必要です。なお、アルコール性肝炎では、GOTの方がGPTより高くなるのが特徴です。
肝障害を指摘されたら
  • γGTPのみが高い場合は、必ずしも肝障害とは言えませんが、アルコールの摂取量は決して少なくありませんので、節酒を心がけてください。
  • GOT・GPTが高い場合は、少なからず肝障害が起きていますので、節酒(場合によっては禁酒)が必要です。禁酒をすれば、通常4〜8週で肝機能の改善が認められますが、良くなったからと言ってまた前の量に戻れば肝障害が進みます。
お酒の上手な飲み方  純アルコールにして約22gを1単位として、1日2単位以内、週10単位以内(女性はその半分)に押さえ、良質のタンパク質を一緒に摂取する事が大切です。酒は飲むべし、飲まれるべからずですね。
このページは院内報No33と同じ内容です
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