土川内科小児科ニュース  11月号  No.58   もどる

  今月のテーマ:狂牛病

 このところ私たちの身近なところで問題となっている事に「狂牛病」と「炭疽菌」の二点が上げられます。二つの問題を同時に取り上げるのは紙面の都合でできませんので、今月はより身近な問題である狂牛病についてまとめて見ました。なお、狂牛病に関する詳しい資料が手元にありませんので、厚生省の発表した資料等を参考にしました。なお、狂牛病についてはまだわかっていない事も多く、現時点でこうだろうと考えられている事が後日訂正されることもありますので、その点をご理解の上ご参考になさってください。
狂牛病とは:狂牛病は正式には牛海綿状脳症=BSE(Bovine Spongiform Encephalopathy)と呼ばれ、1986年に英国で初めて確認された牛の病気です。狂牛病にかかった牛は脳を冒され、歩くこともできなくなって死亡します。この牛の脳を顕微鏡で観察すると、非常に細かい穴がたくさんあいてスポンジの様に見えることから海綿状脳症と呼ばれております。
狂牛病の原因は:プリオンと呼ばれる蛋白(但し、プリオンは正常なものと異常なものがあり、異常なプリオンだけが感染性を持って病気の原因となります)が原因と考えられています。具体的には、汚染された肉骨粉(食肉処理の過程で得られる肉、皮、骨等の残磋から製造される飼料原料)を含む飼料を通じて広がったと考えられ、その汚染原因はスクレイピーに感染した羊又は感染した牛のいずれかと考えられています。  通常、感染症はウイルスや細菌といった微生物により引き起こされます。しかし、プリオン病の病原体は外から侵入する微生物ではなく、身体の中で産生される蛋白質が異常化したものという点でこれまでの感染症とは異質のものです。
プリオンとは:プリオンは正常の動物に存在する蛋白です。正常プリオンがなんらかのきっかけで異常プリオンに変わったり、外から異常プリオン(病原体)が接種されると、その異常プリオンは正常プリオンを異常プリオンに変えていきます。その結果、ウイルスや細菌が増殖するのと同じように、異常プリオンもどんどん増えていきます。プリオンは通常の加熱処理や冷凍処理などでは不活性化されません。このような異常プリオンが原因である疾患を「プリオン病」と呼びます。
プリオン病には:狂牛病以外のプリオン病としては、羊のスクレイピー及びミンクの伝達性ミンク脳症などが知られています。一方、人では、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、ゲルストマン・シュトロイスラー症侯群及び致死性家族性不眠症並びにパプアニューギニアの儀式的な食人と関係しているクールー病等があります。これらの疾患では、程度の差はあるものの、いずれにおいても感染性を有する異常プリオン蛋白が脳の中に証明され、これが病因と推測されています。
クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)とは:主に中年以降に発症し、進行性痴呆、ミオクローヌス(持続時間が極めて短い、けいれん様の反復する動き)、錐体路・錐体外路症状(腱反射の亢進、筋緊張の異常など)を呈する予後不良の脳疾患です。一方、CJDには、新変異型と呼ばれる非定型的なタイプがあります。新変異型CJDは、20代の若年に好発し、不安や感覚障害で初発し、経過が長いのが特徴とされています。
人に狂牛病はうつるのか?:1996年、英国で新変異型CJDの原因として、1989年末の牛の内臓食用禁止令以前に狂牛病にかかった(潜伏期の)牛の内臓を(ハンバーガーなどの肉製品へ脳や脊髄の混入などにより)食べたことが原因である可能性が否定できないと発表されました。その後疫学的研究により、狂牛病と新変異型CJDとの関連については直接的な証拠はないものの、これらを食べたことが発病と関連があるとされました。さらに、動物実験においても、狂牛病と新変異型CJDは同一の病原体であることを示唆する結果が示されています。
狂牛病の危険な部位は:英国での実験・研究の結果、脳、脊髄、眼及び回腸遠位部(小腸の最後の部分)で、それ以外のところから狂牛病の感染はなく、牛乳、乳製品からも感染はないとされています。
生前診断はできないの?:プリオン病の診断には動物、人のいずれでも生前診断することはできません。死亡後に解剖して脳を調べて、異常プリオンを検出しなければなりません。発病する前の潜伏期の段階で異常プリオンを検出する生前診断は、狂牛病、新変異型CJDのいずれでも現在のところ不可能です。
日本での狂牛病:平成13年9月21日についに日本でも狂牛病の発生が初めて確認されました。幸いな事に日本での症例は今のところこの1例のみで、新変異型CJDは、1例も報告されていません。
日本での狂牛病対策:日本の現時点での対策として、
  1. 食肉処理を行う全ての牛について狂牛病迅速検査を実施する。
  2. 狂牛病感染性がある特定危険部位である脳、脊髄、眼、回腸遠位部については除去・焼却する。
  3. 農場において、狂牛病が疑われる牛、その他中枢神経症状を呈する牛等について、狂牛病検査を含む病性鑑定を実施し、検査結果にかかわらず、すべて焼却する。
  4. 輸入食品に関しては、EU諸国等からの牛肉等の輸入を停止する(平成13年1月から)。
  5. 牛肉、牛臓器及びこれらを原材料とする食肉製品について、EU諸国等からの輸入を禁止する(平成13年2月から)。
  6. 狂牛病の主な感染源とされている肉骨粉等については、当分の間すべての国からの輸入及び国内における製造・出荷を一時停止する。
などが実施されており、狂牛病の感染経路は遮断されております。
現時点での問題点:感染経路は一応、遮断されましたが、今回狂牛病と確認された1頭の感染経路が解明されていない事から、既に狂牛病に感染している牛がもういないと断定することはできません。また、今回の対策は、日本国内で狂牛病が発生してから慌てて決められたものであり、現在流通している加工食品については、@製造者に自主点検を求める、A特定危険部位の使用・混入が認められた食品の製造や販売は自粛または自主回収を指導する、にとどまっているため、安全性が保証されている訳ではありません。
今後への要望:次々と不祥事が暴露され、付け焼き刃的な対応に終始する行政に対する不信感はつのるばかりです。さらに、一部のマスコミのパニックを煽るような報道姿勢も人心を惑わせています。このような状態から脱却するためには、行政には利益誘導的な施策をやめて、隠し事をせず、国民の立場に立った適切な対応を希望します。また、マスコミは、信頼できる情報を出来るだけ早く「正確に」伝えてほしいと思います。 情報公開の風が、二十一世紀のスタート早々の暗い出来事からの脱却への切り札となることを期待したいと思います。
狂牛病おすすめサイト
  1. 厚生労働省、「牛海綿状脳症(BSE)関係」ホームページ(Q&Aなど)
  2. 狂牛病の正しい知識 Version 3.4
  3. 連続講座 人獣共通感染症
  4. 牛海綿状脳症 (BSE)のページ
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