土川内科小児科ニュース  12月号  No.59   もどる

  今月のテーマ:インフルエンザ

 早いもので今年ももう12月です。21世紀のスタートの年でしたが、今年は暗いニュースが多かったですね。あまりにもショッキングな内容のため、暗いニュースにばかりに目がいってしまいますが、良いニュースもない訳ではありません。そのひとつにインフルエンザに関することがあげられるでしょう。  今国会で予防接種法が改定され、11月7日から、65歳以上の方のワクチン接種は各自治体で公費補助が行われることになりました。ただし、全額補助ではなく、一部補助です。負担の割合は、各地の情報を集計しますと1000円から2000円の様ですが、安達医師会管内は(今年度については)2000円となりました。しかし、65歳以上に限定されたものですし、接種料金、補助の額など自治体によって全く異なっておりますし、痴呆などのためにワクチン接種の意思表示ができない方は補助の対象から外されているなど、まだ問題も多く残しています。一歩前進と言ったところでしょうか。毎年、年末の院内報は、インフルエンザを取り上げておりますが、今年も様変わりしたインフルエンザの診療について触れて見たいと思います。
インフルエンザの診断:インフルエンザは高熱、悪寒(さむけ)、全身の筋肉痛、関節痛、倦怠感などが突然出現することが特徴ですが、インフルエンザに特徴的な診察所見はなく、症状や所見のみにて正確に診断することは簡単ではありません。これは間違いなくインフルエンザだろうと思って検査をしても陰性、この程度ならインフルエンザではないだろうと考えたケースが陽性、と症状と所見からインフルエンザを診断した場合の正解率は60%位でしょう。インフルエンザを正確に診断するためには、咽頭などからウイルスを分離することが必要ですが、この方法では時間がかかりすぎて、結果がわかるのはすでにインフルエンザが治ってからになってしまいます。
迅速診断法:平成11年1月にはじめてA型インフルエンザの迅速診断キットが発売されました。このキットはA型インフルエンザのみを診断できるものですが、約10分で結果が出ますので、後に述べますがA型インフルエンザに有効な薬剤の登場とあいまって、インフルエンザの治療は大きな進歩を遂げる事になりました。その後、平成12年2月になりさらに一歩進んだ診断キットが発売となりました。このキットはA型でもB型でもインフルエンザであれば、陽性に出ると言うものです。その結果、この2つのキットをあわせて使用することにより、間接的にB型と判定することができるようになりました。つまりA型もB型もわかるキットでは陽性で、A型のみ陽性となるキットで陰性であれば、B型と診断できる訳です。  そして、今シーズンにはついに、A型インフルエンザとB型インフルエンザを1度の検査で診断できる診断キットが発売になりました。これまで症状や勘に頼っていたインフルエンザの診断が、簡単な検査で正確に診断できる様になったことは、とても喜ばしい事です。ただ、今年度に関しては、生産体制の問題や初期不良などで安定して入手することは困難な状況となっており、今シーズンも、インフルエンザの診断に苦労しそうです。
インフルエンザの治療:インフルエンザなどのウイルスによって引き起こされる病気の治療は、一部の例外を除いて特効薬はなく、対症療法が主体でした。対症療法とは、熱があれば解熱剤を使い、咳が多ければ鎮咳剤など症状を和らげるお薬を使う治療で、根本的な原因を治す治療ではありません。ところがこの数年インフルエンザウイルスにも特効薬が登場したのです。インフルエンザの治療は迅速診断キットと特効薬の登場により新しい時代を迎えることになりました。
  • シンメトレル(製品名アマンタジン) :塩酸アマンタジンは、1959年アメリカで抗ウイルス剤として合成開発されました。1964年、Davisらは、本剤が選択的にA型インフルエンザの増殖を抑制することを発見。その作用はウイルスリボ核蛋白の宿主核内への侵入を阻止する事によるものと言われています。アマンタジンは欧米ではかなり前からインフルエンザの治療や予防薬として使われておりましたが、日本では、1977年からパーキンソン症候群治療薬として発売(1987年には、脳梗塞に伴う意欲・自発性低下の改善剤としての効能追加)されてはおりましたが、インフルエンザへの使用は認められておりませんでした。平成10年11月になり、ようやくA型インフルエンザの治療薬として使用が許可されましたので使ってみたところ、非常によく効き、翌日には熱が下がりだして、翌々日にはもう熱もなく元気という感じです。A型にしか効果はありませんが、一般的にA型の方がB型よりも重い傾向がありますので、この薬剤の登場は本当にうれしい限りです。アマンタジンには、中枢神経系の副作用(めまい、ふらつき、睡眠障害、幻覚など)が良く知られていますが、インフルエンザに用いられる投与量は少なめですので、実際使ってみた感じではほとんど問題にならない様に思います。むしろ、この薬剤では、短期間かつ高率に耐性ウイルスが出現することが指摘されており、安易な使用によりアマンタジンの効かないA型インフルエンザが流行することを避けなければなりません。なお、アマンタジンは小児にも使うことができます。ただし、発症後48時間以上経過した場合には薬剤の効果はあまり期待できません。
  • ノイラミニダーゼ阻害剤:A型インフルエンザにもB型インフルエンザにも有効で、しかも耐性ができにくい薬剤が昨年から相次いで発売となりました。インフルエンザウイルスが細胞から細胞へ感染して広がっていくためにはウイルスの表面に存在するノイラミニダーゼの作用が不可欠ですが、この作用を阻止することによってインフルエンザウイルスの増殖を防ぐのがこれらの薬剤の作用機序です。ザナミビル(商品名リレンザ)とリン酸オセルタミビル(商品名タミフル)の2種類が発売され、平成13年の2月から使われております。まだ、発売されたばかりで使用経験が少ないのですが、アマンタジンほどの切れ味はないものの、副作用は腹痛・下痢、嘔気などで重篤なものはなく、AでもBでも効果がありますので、非常に力強い武器が登場したと言えます。なお、タミフルのドライシロップ(子供用の製剤)が近日中に発売になる様ですが、15歳以下の幼児・小児に対して使用許可がおりるのは、来年の4月以降との事ですので、今シーズンはまに合わない様です。  
 インフルエンザの迅速診断キットと抗ウイルス薬の登場により、インフルエンザの治療はこれまでとは全く違ったものとなりました。インフルエンザには予防対策が大切なことに変わりはありませんが、インフルエンザではないかと思われる症状が現れたら、すぐに受診する。これがポイントです。
 今年は暗い1年でしたが、来年は輝ける21世紀の未来を期待できるような出来事が続く様にお祈りして新年を迎えたいと思います。 皆様、どうぞ良いお年を!!
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