土川内科小児科ニュース  4月号  No.63   もどる

  今月のテーマ:診療報酬改定

 平成14年4月1日から健康保険の点数が大幅に変わりましたが、運用にあたり大きな問題が発生する内容が少なくありません。全国で修正を希望する声が相次いであげられており、早期に再改定される可能性も少なくありませんが、いくつかの問題点についてお話したいと思います。
健康保険の仕組みまず、はじめに健康保険の仕組みについて説明します。健康保険には、大きく分けて国民健康保険と社会保険の2つがあり、毎月保険料を支払うかわり、病気にかかった時に保証してもらえるようになっています。たとえば、国民健康保険に加入しているAさんが風邪を引いて医療機関を受診し、診察料や投薬料として3000円かかったとすると、Aさんは、3000円の3割(900円)を負担(自己負担と言います)すれば、残りの2100円は
国民健康保険団体連合会から医療機関に支払われます。医療機関は月単位でAさんに対して行った治療内容について診療報酬明細書(レセプトと呼ばれています)を作成し、審査を受けて合格すれば全額支払ってもらえます。この際、レセプトの記載にミスがあった場合には、書き直しを命じられる場合と支払いを拒否される場合があり、各医療機関では毎月、月末から月初めにかけて、このレセプトの作成作業に没頭する事になります。Aさんの場合には国民健康保険なので、自己負担率は3割ですが、社会保険に加入している場合には、本人であれば2割、家族であれば3割と加入している保険の種類により、自己負担率は異なっています。つまり同じ内容の治療を受けた場合に必要となる医療費は全く同じなのですが、加入している保険が違うと医療機関の窓口で支払う金額が多かったり少なかったりする訳です。これは社会保険の場合、国民健康保険に比べて加入者が多く、財政的に余裕があったので、保証できる金額が多かったためです。しかし、社会保険でも財政上の余裕がなくなって来たため、1昨年社会保険本人の自己負担率が1割から2割に引き上げられ、さらに近い将来、国民健康保険と同じ3割になるのではないかと言われています。
今回の改定すでに新聞などで報道されております様に、今回は医療費全体を減らすという健康保険始まって以来のマイナス改定でした。全体で平均1.7%の減額と発表されていますが、よく使われる項目が重点的に減額されておりますので、実質的なマイナスは20%以上と言われており、世の中不況のまっただ中ですが、医療状況も例外ではない様です。前置きが長くなりましたが、今回の改訂で、特に問題となる点についていくつかご説明したいと思います(なお、病院での診療は診療所の場合とかなり違っていることをご承知おき下さい)。
再診料再診料が、1回目、2.3回目、4回目以後で異なるシステムとなりました。また年齢によっても変わりますし、継続管理加算や特定疾患療養指導料(月2回まで)が加わる場合もあり、同じ診療内容なのに料金が異なる事があります。
ビタミン類ビタミンBやビタミンCなどの栄養剤的なビタミン類は、これまでも原則として使えなかったのですが、今回の改定ではっきり使えなくなりました。ビタミン剤が必要な人は健康保険ではなく、薬局で健康補助薬品として購入しなさいというのが厚労省の考えです。ちょっとわかりにくいかも知れませんが、ビタミン剤の使用に関するところをそのまま引用すると「ビタミン剤に係る薬剤料が算定できるのは、医師が当該ビタミン剤の投与が有効であると判断し、適正に投与された場合に限られるもの、また、ビタミン剤に係る薬剤料を算定する場合には、当該ビタミン剤の投与が必要かつ有効と判断した主旨を具体的に診療録及び診療報酬明細書に記載しなければならない。ただし、病名によりビタミン剤の投与が必要かつ有効と判断できる場合は趣旨を診療報酬明細書に記載することは要しない」。つまり、風邪をひいた際にお注射を希望される患者さんには(風邪に有効な注射はありませんので)、新陳代謝を高め快復力を増加させる様な目的でビタミン剤を使用しておりましたが今後はそれが出来なくなります。
205円ルールの廃止このルールは、「お薬の合計が205円以下であれば、その薬剤名はレセプトに記載しないても良い。また、複数の薬剤を処方した時に、その薬剤の合計が205円以下であれば、1種類と見なす」というものです。これがなくなった事は患者さんに取っても私たち医療関係者にとっても不幸な事だと思います。医療の世界にも裏技、ベテラン医師のコツの様なものが存在します。保険上は正式に認められていないが、このような症状・状態の時にこの薬剤を使用すると非常に効果が認められるという治療が行えなくなってしまいました。外来診療の潤滑油の様なものがなくなった感じで非常に窮屈な感じがします。さらに、これについては以前からおかしいと主張していることなのですが、使っている薬剤の種類によって、患者さんの負担する薬剤代がかわります。薬剤が1種類なら0円ですが、2.3種類なら1日あたり30円、4.5種類なら60円、6種類以上なら100円です。この決まりの意味するところは薬剤の使用量を意図的に減らそうとするもの(薬漬け医療と言われ、医師は儲けるために薬をたくさん使うという報道が今でもなされていますが、薬をたくさん使っても薬価差は数パーセントしかありませんので、10000円の薬剤を使ってわずか2.300円の利益でしかありません。この利益を目的に薬剤を使う医師がいるとは思えないのですが・・・)です。この決まりによって、たとえば、これまで4種類のお薬を1日3回に分けて服用していた(205円以下なら1種類とカウントします)方が、このうちの1つが1日2回の服用に変更になった場合、薬剤が減ったのに2種類とカウントされるため、患者さんの負担が逆に増えるという奇妙な現象が発生しますが、今回の改訂でもそのまま見送られました。
長期投薬投薬日数について「投薬する医師が医学的に判断して必要と考える期間」に変更されました。これにより、これまで投薬は原則14日分が限度でしたが、睡眠薬など一部の例外を除き、処方日数の上限が撤廃された事になります。なにかと制限の多い医療行為の中に、投薬日数だけ制限がなくなったというのはいかにも奇妙で、形の上では医師の裁量権を認めた形になっておりますが、単に医師に責任を転嫁して医療費の減少を狙った施策の様に思われます。なお、この変更に伴い当然必要となる慢性疾患療養指導料については全く何の変更もなく、バランスの取れたシステムとは全く考えられない状況です。
老人負担金定額制の老人負担金(月に4回まで)が1回800円から850円に上がりました。ただし、これは14年9月までで、10月からは1割負担に変わります。医療保険は普段保険料を支払っている人が病気になった時に安心して医療を受けられる内容であるべきですが、今回の改定で益々あるべき姿から遠くへ離れて行く様で何とかしなければと思うのですが・・
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