土川内科小児科ニュース  7月号  No.66   もどる

  今月のテーマ:症候群(1)

 サッカーのワールドカップも共同開催の日本・韓国ともに一次予選を突破して、期待通りの活躍をしてくれました。このワールドカップが始まる前に、日本のフォワードとして注目されていたジュビロ磐田の高原選手がエコノミークラス症候群という病気で入院した事が報道されました。また、最近ではシックハウス症候群、ペットボトル症候群など症候群という名前をよく聞くようになりました。この症候群とは一体どんな病気なのか皆さんご存知ですか。
  症候群とは:いくつかの徴候や症状が同時にまとまって、あるいは相前後して連続的に現れる場合、そしてそれによって「特徴的な病像」が形成される際に使われる呼称です。語源的にはrunning togetherを意味し、concurrenceに該当されるものとされますが、医学では、「病状の集合」、すなわち疾患の経過に伴った徴候や症状の集合を意味し、疾患の病状を構成するものです。でも、この説明ではちょっとわかりにくいと思いますので、よくご
存知のかぜを例に説明してみます。 
 かぜは、そのほとんどが病原微生物の呼吸器への感染で引き起こされる病気ですが、原因の種類に関係なく、くしゃみ・鼻水・鼻づまり・のどの痛み・咳・痰などに加え、発熱・頭痛・全身倦怠感・食欲不振などの全身症状(時に、嘔吐や下痢などの胃腸症状)を伴うと言う点では共通していますので、一括してかぜ症候群と呼ばれます。つまり、症候群とは、色々な原因でいくつかの症状が集まり、ある特徴的な病像が作られる場合に使われます。
 では、次に最近注目されている症候群をいくつか取り上げてみたいと思います。
 エコノミークラス症候群:正確には「深部静脈血栓症」と言われるもので、飛行機のエコノミークラスのように、狭い座席に長時間座っていた人が、急に立ち上がった時などに、胸痛・呼吸困難・意識障害などの症状が現れ、最悪の場合死亡してしまう病気です。これは、狭い座席に長時間座っている事で、下肢の静脈に小さな血の塊(血栓と呼びます)ができ、立ち上がった時などに、この血栓が肺の血管などに詰まることが原因で起こります.。この病気は飛行機に限ったものではなく、列車やバス・車などで長い時間座ったまま動かないでいる時に起こる可能性があります。予防対策としては、時々足首を動かしたり姿勢を変えたり、立ち上がって歩いたりする事が有効。逆にビールは利尿作用があるために脱水を促し、喫煙は血管を収縮して血行を悪くするため、本症候群を起こしやすくしますので注意が必要です。
 ペットボトル症候群:最近は種々の清涼飲料水が発売されており、水代わりにこれらの清涼飲料水を飲む若者も増えています。炭酸飲料や果汁飲料・コーヒー飲料などの糖質濃度は約10%ですので、1.5リットルのペットボトル1本で約150グラムの糖質(カロリーとして600キロカロリー)を摂取することになります。この清涼飲料水をたくさん飲むうちに、糖尿病性ケトアシドーシス(糖尿病の急激に悪化した状態)に陥るというショッキングな出来事が起きており、その多くが大容量のペットボトルで清涼飲料水を飲んでいたことから、「ペットボトル症候群」と名付けられました。体に良いと考えられているスポーツドリンクも少なめですが糖が含まれておりますので注意が必要です。もともと糖尿病の素因がある人や軽症の糖尿病の人が、糖質を多量に摂取すると血糖が高くなります。すると、高血糖によりのどが渇き、なお一層清涼飲料水の摂取が進むという悪循環が形成され、糖尿病性ケトアシドーシスという危険な状態に陥るものと考えられています。水分補給の原則はただの水が一番という事です。
 揺さぶられっこ症候群:まだ小さな赤ちゃんをあやすときの「たかい・たかい」には危険が待ち受けています。まだ、骨の発育の未熟な生後6ヶ月以下の赤ちゃんが頭を激しく揺さぶれられると、脳と頭蓋骨のあいだの血管が切れて硬膜下血腫や眼底出血などが起こり、精神運動発達遅滞、視力障害、脳性マヒなどを引き起こしてしまう事があります。虐待との関連から注目された症候群ですが、普段の子育てでも注意が必要であることがわかってきました。赤ちゃんを扱う際には、「揺さぶらない」「子どもが喜ぶからとたかい・たかいをしない」「伝い歩きをするようになったら、転んで頭部を打たないように目を離さない」などの注意が必要です。この問題の重要性が認識され、母子手帳にもこの症候群に関する情報が記載される様になりました。
 シックハウス症候群:新築や増改築をしたばかりの家で、目や喉が痛くなるなどの症状が見られる「シックハウス症候群」が大きな社会問題となっています。新建材や内装材、塗料、接着剤などに含まれているホルムアルデヒド等の化学物質が原因ではないかといわれています。今年の国会で、シックハウス症候群を防ぐための、建築基準法の改正が行われる様ですが、対策としては、原因と考えられている化学物質をできるだけ放散しない建材を使う、自然のままの素材(無垢材)を使う、換気を重視した設計をするなどがあげられます。
 睡眠時無呼吸症候群:睡眠中に呼吸が止まった状態(無呼吸)が断続的に繰り返される病気で、「一晩(7時間)の睡眠中に10秒以上の無呼吸が30回以上おこる」「睡眠1時間あたりの無呼吸数や低呼吸数が5回以上おこる」場合にこの疾患と診断されます。この疾患では、眠りが浅くなり、夜間の睡眠が十分に取れないために、日中の
眠気、集中力低下、居眠り運転による事故などが見られるようになります。さらに、無治療のまま放置しておくと生命に危険が及ぶ場合もあります。なお、この症候群の重症例はピックウィック症候群と呼ばれますが、これは、チャールズディッケンズの小説「ピックウイッククラブ」に登場する肥満少年「ジョー」についての描写が、この症候群の症状を極めて詳細かつ的確に表現している事によるものです。
 VDT症候群:VDTとはVideo Display Terminal、つまり、コンピューターやテレビゲームなど画面を表示する機器、つまりはパソコンの画面のことです。VDT症候群というのは別名「テクノストレス眼症」ともいわれ、VDTを使った長時間の作業により、目の疲れや首・肩・腰などの痛み、さらにひどい場合は吐気や頭痛、いらいらや抑うつ状態など、一見関係のなさそうな精神的な症状までが出現する病気の総称のことです。これからの時代は仕事や趣味、生活の中でパソコンを使う時間が増えます。パソコンの画面は、下向きに見られる、反射光は入らない、40.50cmの距離などの条件を満たす位置に設置し、作業は50分に10分は休む事などを守って上手に使いたいものです。
この他にも数え切れないくらいの症候群が報告されていますが、今回は特に最近注目されているものを中心に取り上げて解説してみました。
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