健康最前線(No.71)
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今月のテーマ:インフルエンザ(2)
インフルエンザについて(2)◆◆◆
インフルエンザが冬に流行る理由:インフルエンザウイルスは1年中いるのに、どうして冬になるとインフルエンザが流行するのでしょう。これにはいくつかの理由が挙げられます。まず、インフルエンザウイルスにとって温度20度前後、湿度20%前後が最も生存に適した環境で、長時間空気中に漂っていられます(参考1)。冬の気象条件はウイルスにとって非常に都合が良いのです。一方、人側の要因として、寒いところでは、鼻・のど・気管などの血管が収縮して線毛の動きが鈍くなります。線毛はウイルスや細菌の侵入をできるだけ少なくする働きをしますので、線毛の働きが悪くなるとウイルスが侵入しやすくなります。さらに、冬は窓を閉め切った部屋にいることが多くなりますので、中にインフルエンザにかかっている人が一人でもいて、せきやくしゃみでウイルスをまき散らせば容易にうつる訳です。ウイルスが気道粘膜に取り付くと猛スピードで増殖し、十六時間後には一万個に、二十四時間後には百万個に増えて粘膜細胞を破壊し始めます。そのため、インフルエンザの潜伏期は非常に短く、短期間で大流行を引きおこしてしまいます。また、特定のウイルスに感染して回復すると私たちの体にはそのウイルスに対する抗体ができて、二度と感染しないのが普通ですが、インフルエンザに何度もかかるのはウイルス側が生き延びるために遺伝子の配列を少しずつ変え(小変異)、免疫の網の目をくぐりぬけようとするからです。インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型の三種類あり、A型はさらにいくつかのタイプに分かれますが、このA型が姿を変えるのが得意なのです。ここ20年間流行を繰り返しているのはA香港型、Aソ連型、B型の3つというのはその辺に理由があります。
参考1:参考1:ある実験によると、閉め切った大きな箱の中を湿度20%、温度20度に設定してインフルエンザウイルスを吹き込み、6時間後に調べると70%近くのウイルスが生きていますが、温度は変えず、湿度を50%以上に上げると3%のウイルスしか生きていませんでした。なお、湿度は20%のままで温度を32度にした場合は17%に減っていました。
インフルエンザの診断:インフルエンザは高熱、悪寒(さむけ)、全身の筋肉痛、関節痛、倦怠感などが突然出現することが特徴ですが、インフルエンザに特徴的な診察所見はなく、症状や所見のみにて正確に診断することは簡単ではありません。症状と所見のみからインフルエンザを診断した場合の正解率は60%位でしょう。インフルエンザを正確に診断するためには、咽頭などからウイルスを分離することが必要ですが、この方法では時間がかかりすぎて、結果がわかるのはすでにインフルエンザが治ってからになってしまいます。しかし、平成11年1月にその場ですぐ結果が出るキットが発売され、迅速診断が可能になりました。この製品はA型インフルエンザしか診断できないものでしたが、約10分で結果が出ますので、後に述べますA型インフルエンザに有効な薬剤の登場とあいまって、インフルエンザの治療は大きな進歩を遂げる事になりました。その後、平成12年2月になりA型でもB型でも診断できるキットが、そして平成13年の冬にはついに、A型とB型インフルエンザを1度の検査で区別できる診断キットが発売になり、これまで経験や勘に頼っていたインフルエンザの診断が、簡単な検査で正確に診断できる様になりました。
インフルエンザの治療:インフルエンザなどのウイルスによって引き起こされる病気の治療は、一部の例外を除いて特効薬はなく、対症療法が主体でした。対症療法とは、熱があれば解熱剤を使い、咳が多ければ鎮咳剤など症状を和らげるお薬を使う治療で、根本的な原因を治す治療ではありません。ところがこの数年インフルエンザウイルスにも特効薬が登場したのです。インフルエンザの治療は迅速診断キットと特効薬の登場により新しい時代を迎えることになりました。
  • シンメトレル(製品名アマンタジン):塩酸アマンタジンは、1959年アメリカで抗ウイルス剤として合成開発されました。1964年、Davisらは、本剤が選択的にA型インフルエンザの増殖を抑制することを発見。その作用はウイルスリボ核蛋白の宿主核内への侵入を阻止する事によるものと言われています。この薬剤は日本では1977年からパーキンソン症候群治療薬などとして使われておりましたが、平成10年になり、ようやくA型インフルエンザの治療薬として使用が許可されました。実際に使ってみると非常によく効き、翌日には熱が下がりだして、翌々日にはもう熱もなく元気という感じです。A型にしか効果はありませんが、一般的にA型の方がB型よりも重い傾向がありますので、この薬剤の登場は本当にうれしい限りです。アマンタジンには、中枢神経系の副作用(めまい、ふらつき、睡眠障害、幻覚など)が良く知られていますが、インフルエンザに用いられる投与量は少なめですので、実際にはほとんど問題にならない様に思います。むしろ、この薬剤は、短期間で高率に耐性ウイルスが出現することが指摘されておりますので、安易な使用によりアマンタジンの効かないA型インフルエンザが流行することを避けなければなりません。ただし、発症後48時間以上経過した場合には薬剤の効果はあまり期待できません。
  • ノイラミニダーゼ阻害剤:A型インフルエンザにもB型インフルエンザにも有効で、しかも耐性ができにくい薬剤が平成13年になり登場しました。ザナミビル(商品名リレンザ)とリン酸オセルタミビル(商品名タミフル)の2種類が現在発売されています。インフルエンザウイルスが細胞から細胞へ感染して広がっていくためにはウイルスの表面に存在するノイラミニダーゼの作用が不可欠ですが、この作用を阻止することによってインフルエンザウイルスの増殖を防ぐのがこれらの薬剤の作用機序です。副作用は腹痛・下痢、嘔気などで重篤なものはなく、AでもBでも効果がありますので、非常に力強い武器が登場したと言えます。なお、タミフルのドライシロップ(子供用の製剤)も平成14年の冬からは使える様になりました。
インフルエンザに危険な熱さましって?:厚生省が平成12年11月に発表した「インフルエンザの臨床経過中に発症した脳炎・脳症の重症化と解熱剤(ジクロフェナクNa 商品名ボルタレンなど)の使用について」の中で、平成12年度の調査では、91例のインフルエンザ脳炎・脳症発症例について検討を行い、ジクロフェナクNa使用群と他の解熱剤使用群とを比較した結果、使用群において昨年より高い有意性をもって死亡率が高い(他の解熱剤使用群38例中5例に対しジクロフェナクNa使用群12例中7例)ことが示されました。そのため明確な因果関係は認められないものの、インフルエンザ脳炎・脳症患者に対するジクロフェナクNaの投与を禁忌とすることとしました。元々小児に対してその使用が推奨されている熱さましは、アセトアミノフェンとイブプロフェンの2種類ですので、ジクロフェナクNaは通常の外来ではあまり小児に対しては使われませんが、大人には良く使われる薬剤ですので、子供に半分にしてなどと使うことの無いようにお願いします。
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