健康最前線(No.73)
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今回のテーマ:スギ花粉症
花粉症のメカニズム:花粉症の仕組みを理解するためには、アレルギーについての知識が不可欠です。 「アレルギー」とは、ある特定の物質に対して過敏に反応する事をいいます。アレルギーの原因となる物質の事をアレルゲンと呼びます。花粉症とは花粉がアレルゲンとなって起こる病気の総称です。アレルゲンとなることが知られている花粉(花粉症の原因)の代表はなんと言ってもスギですが、スギ以外にカモガヤなどの稲科の雑草、ブタクサ・ヨモギなどのキク科の雑草など約40種類もあります。アレルゲンとなる花粉に何年も接触していると、アレルゲン(花粉)に対する対抗物質(抗体)が作られるようになります。この抗体は肥満細胞と呼ばれる細胞の表面にくっつきます。そこに花粉がやってきて抗体に結合すると肥満細胞からヒスタミンなどの化学物質が放出され、このヒスタミンによって花粉症の症状(鼻水・くしゃみ・鼻づまり)が引き起こされます。花粉は目や鼻の粘膜から侵入しやすいため、目や鼻の症状が主な症状となります。
スギ花粉症について:日本で始めてスギ花粉症が発見されたのは1963年です。その後、花粉症は急増し、1996年には日本人の約12%にあたる1200万人と言われ、糖尿病(約600万人)の約2倍です。スギ花粉症がこのように増えた理由として、戦後の一時期に一斉に植林が行われ(現在人工林の50%強をスギと檜が占めている言われています)、その後安い輸入建材におされて伐採が行われなくなったため、スギが熟成して花粉を大量に生産し始めたことが上げられます。一斉に植林が行われたために各地のスギの樹齢がほとんど同じで樹齢差がないために、すべてのスギが一斉に花粉をとばすことも要因の一つのようです。現在花粉をとばさないスギの植林がすすめられていますが、その成果がわかるのは30〜40年も先のことです。このほか大気汚染による気道粘膜の過敏性亢進や食生活の変化による異物に対する反応の過敏化、寄生虫感染の減少(寄生虫が体の中にいると、寄生虫に対する抗体がたくさん作られて肥満細胞の表面を覆うため、花粉と反応する抗体が肥満細胞に結合できなくなり、花粉が侵入してきてもアレルギー反応が起こらないという説)なども関与していると言われています。 一般に吸入するアレルゲン粒子が10ミクロン以上のとき、100%鼻粘膜に吸着されると言われています。スギ花粉の大きさは直径約30ミクロンですので、100%鼻粘膜に付着し、それより奥の気管や肺へは侵入できません。同じアレルギーで引き起こされる疾患でありながら、スギ花粉で喘息などの症状が出ないのはこのためです。また、スギの一枝あたりの花粉の量は約一億2500万個、また、飛散する距離は数十キロ〜数百キロと言われています。その年のスギ花粉の飛散量は前年の夏の気温と日射量に左右されます。夏に暑い日が多く日射量が多い年は、翌年の雄花の数が多くなるからです。しかし、夏の天候が良くても、秋〜初冬に、台風による強風や極端な秋の長雨、初冬の寒波があれば、雄花の生育が遅れ、花粉の飛散数が減少することもあります。
花粉症の診断:花粉症の診断では風邪との区別が問題になりますが、症状から区別する方法としては、鼻水の他に目のかゆみを伴って、毎年同じ頃に症状が出る場合は花粉症の疑いが濃厚です。喉や鼻の奥の痛みはどちらの場合でも見られますが、発熱・咳などの症状は花粉症では見られませんので、鼻水の他に咳を伴う場合などは、風邪の可能性が高くなります。しかし、正確に診断するためには、鼻汁や血液の検査が必要です。鼻汁の検査では鼻汁中に含まれる好酸球の数を調べます。血液検査ではスギやヒノキなどに対する抗体ができているかどうかを調べます。診断が確定することで、より治療がしやすくなり、種々の対策も立てやすくなりますので診断は確定しておきましょう。
花粉症の治療:花粉症の治療に使われるクスリには、大きく分けて3つのタイプのものがあります。一つ目は抗アレルギー剤と呼ばれるもので、アレルギー反応そのものを抑える薬です。このタイプの薬はその効果が十分に発揮されるのに、2週間位かかりますので、症状が出る前から服用し始める事(季節前治療)が大切です。2つ目は、抗ヒスタミン剤と呼ばれるグループです。アレルギー反応の結果、肥満細胞より放出されたヒスタミンの作用をブロックする薬です。飲めばすぐに効きますので症状が出てから使うのが一般的です。抗ヒスタミン剤には共通して眠気・だるさなどの副作用が見られますが、最近はこのような副作用の少ない製剤も何種類か発売されています。最後は、ステロイド剤です。ステロイド剤はいろいろな副作用をもっていますので、内服ではなく、局所に点鼻、点眼で使うのが安全で有効な使用法です。さらにこの他に、脱感作療法や手術などもありますが、脱感作療法は現段階では効果が確実でなく時間もかかることから、あまり一般的ではありません。
花粉症対策:遺伝的な素因のない人でも、長年にわたり花粉との接触を繰り返していると発症することがわかっていますので、できるだけ花粉と接触しないようにする事がもっとも大切な事です。その具体的な対策として
  1. 昼頃から夕方にかけて花粉の飛散数が多くなるので、外出は午前中の早いうちにします。晴れて風が強い日や新聞などで大量飛散が予報されている日には、外出を控えましょう。大量飛散日だけ外出を避けるだけでもかなり効果的です。
  2. 外出時は帽子をかぶり、マスクや眼鏡を着用しましょう。眼鏡は防御カバー付きのものを使用するとより効果的です。
  3. 花粉シーズン中に窓を開けて行う掃除は、花粉飛散が比較的少ない朝のうちに行い、花粉を家の中に入れないようにしましょう。洗濯物は、花粉を払い落としてから家の中に取り込み、また、布団は強風の日に干さないようにしてください。
  4. 帰宅後、コートや手袋・帽子・マスクなどは、ドアの外で花粉を払い落として家の中に持ち込まない様にしましょう。帰宅後、できるだけ早く石鹸で手や顔を洗い、うがいと目を洗いましょう。早めにお風呂に入り、髪も洗うとより効果が期待できます。
  5. 過労や精神的なストレスは、アレルギー症状の現れるきっかけになったり、症状を更に悪化させますので、不規則な生活を避け、十分な睡眠を取りましょう。また、酒やタバコは花粉症に対する抵抗力を弱めるので、減酒・減煙に努めて下さい。
  6. 空気清浄器は家の中に入り込んだ花粉の除去に有効ですが、まだかなり高価です。
花粉症はまだ根治できませんが、より良い薬も登場してきていますので、種々の対策を組み合わせてこの辛い季節を乗り切りましょう。
飛散量の多い警戒日とは  
  1. 強風または暖かい南風の吹く日(特に春一番が大敵!)
  2. 朝方が冷え込み、日中の気温が上がる晴れの日や曇りの日
  3. 空気が乾燥して急に湿度が下がった日
  4. 雨上がりの翌日でよく晴れた南風の強い日
  5. 飛散の多い時間帯は晴れている日の昼過ぎと日没後
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