健康最前線(No.77)
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今回のテーマ:夜尿症
夜尿症とは 4〜5歳以後に少なくとも月に1回以上のおねしょがあるものをいいます。夜尿は5歳児で10〜15%、10歳児で7%程度にみられ、どの年令においても男児の方が2〜3倍多いことが知られています。乳児期から引き続いている一次性と、一度見られなくなってから何らかのきっかけで再び見られるようになった二次性がありますが、80%以上が一次性の夜尿症です。原因としては遺伝的因子、膀胱機能及び成熟の遅れ、精神的ストレス、器質的原因などがあげられています。
どうして夜尿が見られるのか:通常、睡眠中は尿を濃くするホルモン(抗利尿ホルモン)が分泌され尿量が減りますが、このホルモンの分泌が不十分だったり、水分を多くとりすぎたりすると夜間寝ている間の尿量が多くなります。寝ている間に作られる尿量が膀胱にためておける尿量より多くなると、尿があふれてしまいます。このとき、目を覚ます事ができればトイレに行けますが、グッスリ寝て起きられないと夜尿となります。従って、夜尿には、大きく分けて尿量が多すぎる場合と膀胱に尿をためる量が少なすぎる場合の2つのタイプがあります。
夜尿症の分類:夜尿症は夜尿の量と膀胱容量を元に3つのタイプに分類されます。
  1. 大量遺尿型:一晩の尿量が250ml以上かつ、最大膀胱容量が200ml以上のもの。さらにこのタイプは正常浸透圧(濃縮力正常)と低浸透圧(濃縮力低下)に分けられます。
  2. 排尿機能未熟型:夜間の尿量は200ml以下で濃縮力は正常だが膀胱容量が200ml以下のもの。
  3. 混合型:1+2で、一晩の尿量が250ml以上かつ最大膀胱容量が200ml以下のもの。
具体的な診断
  1. おねしょのパターンチェック:毎晩見られるのか、週に数回なのか。また、一晩に1回だけなのか、複数回なのか。さらに、1回の場合には、12時までにしているのか、明け方になってから見られるのかなどで大まかな重症度がチェックできます。12時までにおねしょが見られる場合は夜間に2回以上のおねしょがみられる事が多く、治るまでにしばらくかかる可能性が高いのですが、朝方ちょっとだけ濡れる程度の場合には、もう少しでおねしょが無くなる可能性が高いと考えられます。
  2. 夜間の尿量測定:おねしょの量はおねしょパンツなどを利用して測定します。おねしょをしたパンツの重さから未使用のパンツの重さを引くことで、おねしょの量がわかります。このおねしょの量に朝起きてすぐの尿量をたしたものが、夜間の尿量です。
  3. 最大膀胱容量(がまん尿量)の測定:紙コップなどを用いてぎりぎり我慢した時、どのくらいのおしっこがためられるかを測定します。6〜9歳で200ml以上、10歳以上で250ml以上が正常値の目安です。
  4. 尿の浸透圧の測定:朝一番に採取した尿を持ってきていただいて、浸透圧を測定します。浸透圧とは、どのくらいおしっこが濃縮されているのか(おしっこの濃さ)です。850以上あれば、十分濃くされていると判断します。
 これらの項目を総合的に判断することで夜尿症の重症度やタイプが把握できます。その結果に応じて次に上げる治療法の中から必要なものを選択して治療をスタートする事になります。
治療の原則:「あせらない」・「しからない」・「起こさない」の3原則が大切です。
  • 「あせらない」:夜尿症はあせっても早くなおるものではありません。義務教育が終了する頃までには、ほとんど自然に治りますので、のんびりしたおおらかな気持ちで治ってくるのを待ちましょう。
  • 「しからない」:夜尿を叱ってしまうと、本人も気にしていますので、劣等感を助長し、自主性や意欲を減退させることになりかねません。叱るのは逆効果です。優しい気持ちで接してあげて下さい。
  • 「起こさない」:夜中に起こしてトイレに行かせることは、睡眠リズムを狂わせ、本来深い眠りが持っているおしっこを濃くするホルモンの分泌の高まりや排尿機能の発達を妨げる結果になってしまいます。トイレに起こすことで、その夜おねしょをしないのは、「トイレおねしょ」といって、本当におねしょが治ったことにはなりませんので、止めましょう。
具体的な治療
  • 水分摂取のコントロール:水分の摂取が多いと尿量も増えますので、夕方からは水分の摂取を制限します。逆に朝から日中にかけては十分水分を採るようにします。朝と昼に350〜400mlの水分を摂取し、夕食時には50ml前後というリズムを作るように心がけましょう。また、水分だけでなく塩分も控えめにします。塩分を多くとると、のどが渇いて水分をたくさん摂取してしまうからです。急に薄味すると美味しくないと感じてしまいますので、味付けは徐々に薄味にして行くことも大切なポイントの一つです。
  • 膀胱機能訓練:日中、お休みの日などを利用して、毎日おしっこをためる練習をしてください。はじめは短時間でも叱らずに、ゆっくり我慢する時間をのばしていきます。また、おしっこを途中で止める練習も効果があります。なかなかうまく出来ない時には「お尻の穴をすぼめて」というアドバイスが効果的な事があります。
  • ストレスへの対処:精神的なストレスがある場合、それが取り除ける場合には取り除いてあげます。そうでない場合でも子供の立場に立って、一緒に考えたり、問題に取り組んだりしてあげましょう。
  • 条件反射を利用した治療法:夜尿をしてしまったら、すぐに起こすという事を繰り返すことで、おしっこをしそうになったら目が覚めるという条件反射を作っていくという治療法です。おしっこで布団がぬれたらブザーがなる装置とブザーが鳴ったら素早く起こすというご両親の根気強い協力が必要ですが、かなり効果があります。
  • 薬物療法:通常、抗うつ剤が夜尿症の治療には使われます。このお薬には抗利尿ホルモンの分泌をうながす作用、膀胱尿道括約筋の機能を改善する働きがあります。また、尿失禁改善薬や膀胱の緊張をゆるめるお薬を使う事もあります。さらに抗利尿ホルモン(DDAVP)や漢方薬などを使うこともあります。
毎日の様子を記録しましょう:治療方法の決定や治療効果の評価のために、毎日の夜尿の様子を記録する事が必要となります。記録する項目は、
  1. 大体何時頃におねしょがあったか(12時前か明け方か)
  2. 何回のおねしょがあったか(1回か2回以上か)
  3. おねしょの量
  4. 起きてすぐのおしっこの量
  5. 日中できるだけ我慢してためることができた尿量(がまん尿量)
 3+4が夜間尿量です。この量が膀胱最大容量(がまん尿量)を遙かに超えている場合には、途中で起きて排尿しなければ、おねしょをしてしまうのが当然です。その場合には、夜間の尿量を少なくする色々な工夫や治療が必要となります。逆に夜間尿量がそれほど多くなければ、膀胱にためる事ができる量(がまん尿量)を増やせればおねしょはなくなることが期待できます。この様に毎日の様子を記録することでどの様な治療が一番効果があるのか、治療効果は現れてきているのかなどの判断が可能となります。
ポイント:あせらない・おこらない・起こさないです。絶対夜尿症は治ります。おねしょは治ったが、神経質でびくびくしている様になったり、自信のない、暗く内向的な子供になったなどの問題が生じることのない様に気をつけましょう。
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