健康最前線(No.93)
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今回のテーマ:子供の事故防止
1960年以降の0歳を除いた小児の死亡原因の第一位は「不慮の事故」によるものです。他の先進国と比較しても我が国の乳幼児の事故による死亡率は高く注意が必要です。今回は乳幼児の事故防止についてまとめてみます。
誤飲・誤食:どんなものを誤嚥するか 当院で経験したものでは、一番多いのがタバコの吸い殻ですが、そのほかに風邪薬のシロップの一気飲み、パチンコ玉、プラスチック製おもちゃの破片、アルミ箔、クリップ、水銀体温計の水銀、泥水、生肉、おはじき、大人の薬など(順不同)。乳幼児は何でも口に持っていきますので、危険なものは周りにおかない事が大切です。まさかこんなものは飲み込まないだろうというものでも飲み込んでしまうのです。直径32ミリ、長さ57ミリの筒(カメラのフィルム入れの大きさ)に入るものは飲み込んでしまう可能性があります。子供に大人の常識は通用しませんので、大丈夫だろうで放置しない対応が必要となります。
飲んでしまった場合の対応
  1. 状況確認:落ち着いて何をどのくらい飲んでしまったのかをできるだけ正確に調べて下さい。
  2. 安全性の確認:次に飲んでしまったものが安全なものか、危険なものかの確認をします。安全かどうかがわからない時には、その商品のメーカーに安全かどうかを確認します。問い合わせ先がわからない時には、日本中毒情報センター中毒110番( 072-727- 2499 )などを利用すると良いでしょう。
  3. パチンコ玉や硬貨などの固形物を飲み込んでしまった場合:大きさが1円玉以下で、鋭い突起などがない場合には自然に排泄されますので、便をチェックして様子を見てるだけで大丈夫ですが、ボタン型電池など1カ所に留まると放電(電気分解反応)が起こり、食道や胃の粘膜を腐食したり、胃に穴があく危険があるものでは、摘出が必要な場合もあります。
  4. 食べ物にも注意が必要:3歳を過ぎるまでは、気管に詰まりやすい「あめ」や「ピーナツなどの乾いた豆類」は食べさせないようにしましょう。
  5. タバコの場合:2センチ以下であれば通常大丈夫と思われます。乳幼児ではタバコ1本に含まれるニコチンが致死量ですので、それ以上食べた場合や、水に浸っていたタバコを食べたり、その液を飲んだ場合(ニコチンが溶け出ています)には、胃洗浄などの早急な対応が必要となります。どのくらい食べたのかわからないケースも少なくありませんが、危険な量を食べていれば、顔色が悪い、嘔吐を頻回に繰り返す、腹痛や下痢、よだれが多く出るなどの症状が見られる事が普通ですので、そのような症状が見られない場合には、約4時間注意深く様子を観察し、何もおこらなければ大丈夫でしょう。
  6. 医薬品を過量に飲んでしまった場合:3歳前後の幼児で医薬品の大量誤飲を時々経験します。飲んでしまうのは自分の薬のほか、兄弟がもらった薬や大人の薬の事もあります。水薬の場合には、ジュース感覚で全部飲んでしまったりするようですが、配合されている薬の種類によっては、生命にかかわる一大事となることもあります。特に気管支炎や喘息などで良く使用される気管支拡張剤が配合されている場合には、過量摂取で重篤な不整脈が起こる可能性がありますので、特に注意して下さい。私も何度か処方したお薬を一気飲み(幸い大事には至りませんでした)されてしまった経験から、最近は気管支拡張剤はシロップではなく、細粒を処方する様にしています。医薬品は量を間違えると大変な事になりますので、子供が手の届くところに置いたり、子供の目の前に置いたまま目を離したりする事のないように管理して下さい。
やけど:やけども時々経験(生後6か月頃から2歳半までが多い)します。体が小さいために、やけどの占める割合が多く、また皮膚が薄いために深いやけどになりやすいので注意が必要です。ストーブやアイロン、ホットプレートなどのほか、コーヒー、カップラーメンのお湯などが原因としてよく見られます。まさかという様な通常では予測できない動きをする事がありますので、やけどがおこりうる状況を作らない事が大切です。目を離さないつもりでもちょっとした瞬間に起きてしまうのが事故なのです。もし、やけどをしてしまったら、すぐに水道水で十分に冷やした後、冷やしながら、医療機関を受診して下さい。その際、やけど部分に軟膏を塗ったり油を付けたり、水ぶくれを破いたりしないで下さい。
転落事故:ベランダや窓際、階段から転落する事故が時々報道されます。歩き出す1歳過ぎになると可能性が高くなりますので、事故防止のため、ベランダや窓際には踏み台になるようなものを置かない、窓や階段には柵を付けるなどの対策が必要です。特にお風呂では、転落のほかにおぼれる(たった5センチの水でもおぼれる)可能性があります。3歳以下の子供がお風呂場に1人になる様な事は、ほんの一瞬でもないように気をつけて下さい。一緒に入っていてもシャンプーをしている間に、タオルを取りにちょっと目を離したすきにおぼれていた事例が報告されています
車での事故:車に関連する事故で時々耳にするのは、車内に残された乳幼児が熱中症になることです。たとえ短時間でも乳幼児を車内に放置する事は避けて下さい。ちょっとのつもりが何らかの事情で長引いてしまった時、そんな時に事故が起こるのです。また、平成12年の4月から、6歳以下の乳幼児を自動車に乗せるときには、チャイルドシートを着用する事が義務づけられました。チャイルドシートも種々のものがありますので、親の都合ではなく、子供本位で安全性に重点をおいて慎重に選び、マニュアルを良くお読みになって正しく使って下さい。子供の事故とはちょっと違いますが、禁止されているにもかかわらず、運転中に携帯電話をかけている方を時々見かけます。危険なので運転中はドライブモードにして下さいね。
 子供の事故防止では、事故が起こりそうな状況を作らないと言う点がすべての事故防止に共通する予防の考え方です。たぶん大丈夫だろうと言う甘い判断が大きな事故につながってしまいます。事故は普段は起こらない、いくつかの原因がたまたま重なって起こってしまうものです。少しでも事故につながる可能性がある状況は改善する、改善が難しい場合にはお子様から目を離さない、対応が後手に回る事のない様に日頃から心がける事が大切です。
誤飲・誤食の大丈夫目安(大まかな目安です)
  • 心配のないもの:水銀体温計、線香、シリカゲル、のり、消しゴム、植物活力剤、 水彩絵の具、鉛筆お  よび鉛筆の芯、小麦粘土、ポスターカラー、食品保存剤(脱酸素剤・鮮度保持剤)
  • 少量なら大丈夫なもの:クレヨン・クレパス、インク、油粘土、墨汁、朱肉・スタンプインク、化粧用クリー  ム、口紅、化粧水、香水、シャンプー、石鹸、シャボン玉液、義歯洗浄剤、ホウ酸団子、マッチ、ろうそく、  肥料、芳香剤、紙おむつ、靴クリーム
  • 少量でも危険なもの:生石灰(酸化カルシウム)、マニキュア液、除光剤、パーマ液、染毛剤、酸 ・アル  カリ性の洗剤、カビ取り剤、漂白剤、換気扇・レンジ用洗剤、液体蚊取り、防虫剤(ナフタリン、しょうの  う)、逆生石鹸、灯油、ベンジン、ガソリン
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