土川内科小児科ニュース  11月号  No.34 
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  今月のテーマ:インフルエンザ

 今年もまもなくインフルエンザのシーズンがやってきます。昨年、一昨年と12月にインフルエンザを取り上げておりましたが、今年は後述するワクチンの関係で、1ヶ月早く、これまでとは別な観点からインフルエンザについて取り上げてみたいと思います。
 インフルエンザが恐いのは、単に症状が重いという以外に、脳炎・脳症や心筋炎、肺炎などの重篤な合併症の見られる頻度が高いからです。  平成9年〜10年の冬は、主に学童を対象としたインフルエンザ様疾患発生報告において、全国で127万人と過去10年間で最高の患者数となるとともに、インフルエンザの臨床経過中に発生した脳炎・脳症による死亡例が報告されました。これを受けて厚生省はインフルエンザ脳炎の実態把握のために全国調査を行い、その結果を6月25日公表しました→インフルエンザの臨床経過中に発生した脳炎・脳症について

 それによると 60歳以下で、インフルエンザの経過中に発熱・意識障害が見られインフルエンザ脳炎・脳症と診断された報告例は、217(男性108、女性109)名。年齢分布は右図の様に、5歳までに全体の82.5%が含まれており、中央値が3歳と若年層に偏った分布となりました。17例のうち、完全に回復したものが86例、後遺症の残ったものが56例、経過観察中が17例、死亡したものが58例でした。
 インフルエンザの発症から脳炎・脳症の症状を呈するまでの期間は、全体の平均で1.4日と非常に短く、死亡例では平均は1.1日と、回復例の1.5日と比較して短くなっているものの統計的に有意な差ではありませんでした。脳炎・脳症の症状としては、意識障害、痙攣が最も多く、次いで麻痺、嘔吐、異常行動などでした(右図参照)。

 一方、アスピリンを含む市販薬の服用あるいはインフルエンザの診断前の同剤の使用が5例でした。(注 :水ぼうそう・インフルエンザの時に、アスピリン入りの熱さましを使うと激しい嘔吐・意識障害・けいれんなどの症状を特徴とする「ライ症候群」を起こすという報告があります)。  なお、今回の調査では、脳炎・脳症を続発した患者さんの中に、インフルエンザワクチン接種を受けている人は1例もいませんでした。
 以上が、今回発表になった資料の概略ですが、インフルエンザの経過中に見られる脳炎・脳症は、@その発症までの期間が1〜2日と非常に短く、A初発症状としては、意識障害、けいれんが多い事がわかりました。高熱はインフルエンザに特有の症状ですので、高熱を理由に外来を受診した時点では、まだ脳炎・脳症特有の症状がなく、帰宅後夜になって、意識障害などが出てくる事も考えられますので、注意深く観察して、心配な症状が見られ始めた時には、再受診する事が大切であることを覚えておいていただきたいと思います。
 インフルエンザワクチンの接種率が高かった訳ではありませんので、今回のデーターから、ワクチンの接種を受けていれば、脳炎・脳症にかからないということは言えませんが、積極的な治療法が確立していない現状では、重症化を防ぐためにはワクチンの接種を受けておく事は十分考慮に値する事と思います。インフルエンザワクチンの集団接種が行われなくなった事が、インフルエンザワクチンの効果を否定するものではありませんので、厚生省の発表した予防接種問題検討小委員会の報告書(下のコラム欄)などもお読みになって、予防接種を受けるかどうかをご検討下さい。特に、ウイルスに対する抵抗力が弱いお子さんや免疫力の低下する高齢者では、インフルエンザにかかると重症化しやすいので、注意が必要です。
 今年はインフルエンザワクチン接種の希望者が多く、昨年の倍量を生産したとのことですが、現時点ですでに手に入りません。当院でも昨年の4倍の量を何とか確保しましたが、希望者が多く、すでにその3分の2が予約で埋まっております。いざ受けたいと思ったときには、ワクチンがないということにならないようにご注意下さい。  用心をしていても運悪くかかってしまった場合は、お早めに受診なさってください。
予防接種問題検討小委員会(厚生省、公衆衛生審議会感染症部会の下に設けられた小委員会)報告書について(H11.7.5)」からの引用   インフルエンザは、一般的に風邪と混同されて軽い病気であると考えられがちであるが、高齢者等が罹患した場合にあっては、肺炎を併発して重症化する場合や時には死亡に至ることがあり、通常の風邪とは明確に一線を画して予防を強力に押し進めていかなければならない疾患である。予防対策として、マスク、うがい等の一般的な方法はもちろんであるが、インフルエンザを予防していく最大の手段はワクチン接種である。ワクチンの有効性については、これまで我が国において様々な議論が続けられてきたが、高齢者等のインフルエンザに罹患した場合の高危険群の者を対象と考えた場合等において、国内外の報告においてその一定の有効性は証明されている。  平成6年の予防接種法の改正時には、このようにインフルエンザワクチンの発病防止・重症化防止の効果を評価し、各個人がかかりつけ医と相談しながら接種を受けることが望ましいとする一方、それまでの同法に基づく学童等を対象としたインフルエンザの予防接種については、インフルエンザの社会全体の流行を阻止する効果は証明されていないことから、同法の対象から除外されたものである。  しかしながら、予防接種法の対象からインフルエンザが除外されたことにより、国民の間でインフルエンザの疾患としての重要性とワクチンの有効性がさらに軽視されることとなり、個人予防の観点からの発病防止・重症化防止を目的としたインフルエンザワクチンの必要性の認識が必ずしも国民に定着していない状況にある。また近年、高齢者施設等におけるインフルエンザの集団感染事例やインフルエンザによる高齢者の死亡、小児におけるインフルエンザ脳炎及び脳症が報道され、人口動態統計(速報)においても、平成10年から11年にかけてのシーズン(昨冬)において、例年の同時期に比べて多数の死亡者が報告されており、専門家の間ではインフルエンザの関与も指摘されている。  以上のことから、個人の発病防止・重症化防止を主な目的として、高齢者を対象としたインフルエンザワクチンを予防接種法に基づく予防接種として実施していくことについては、接種の同意の取り方、禁忌の者を的確に除外するための問診票の検討等の実務的な予防接種の手続きを固めつつ、後述の対象疾患の類型化を含めた具体的な予防接種法上の取扱いの検討を早急に進めていくことを提言する。  また、小児等がインフルエンザによる脳炎・脳症の危険性等から高齢者同様に高危険群であり、保育所や幼稚園においてインフルエンザに罹患する危険性も高く、予防接種法に基づくインフルエンザの予防接種の対象とすべきとの意見もあった。小児等のインフルエンザについては、有効性等についての調査研究が不十分であることから、本委員会としては、今後、厚生省において小児等のインフルエンザに関する有効性等に関する調査研究を行い、その結果に基づいて対応に関して早急に検討することを提言する。なお、医療機関の従事者や高齢者施設の介護者等については、インフルエンザに罹患した場合に高齢者等の高危険群に対する感染源となる可能性が高いことから、インフルエンザワクチン接種の重要性等についての認識を高めていくことが重要である。       
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